シナリオ『電影マニアックス』5
22 フェードインしてくると。──
ある神社の境内、(何かの物陰から映しているような映
像で) 遠くの方に佇む髪を金髪に染めた少年の姿が見え
る。
剣道具を背負った少女が来る。
テロップ。──『 1996 初夏 ミチロウとユミコ 』。
顔を真っ赤にして真剣な表情でユミコに何かを喋ってい
るミチロウ。
声は聞き取れない。
ユミコ、うつむき黙って聞いていたのが、ふと面を上げ
ミチロウを見つめると首を横に振る。
ミチロウ、途端に落胆した様子。
一言何かを言うとミチロウに背を向けその場を去るユミ
コ。
呆然とするばかりだったが急に何かを思い出したように
辺りを見回すミチロウ。
ミチロウ「(何かを見つけて)!」
ミチロウ、怒りの気配で画面に近寄って来る。
ミチロウ「やめろ!」
──と言って手を伸ばしてきたので、画面は逃げて乱れ
た様子を見せる。
ケンイチの声「ミチロウ、ま、待てって」
ミチロウ「うるせー!」
ケンイチの声「分かるだろ、記録だよ。コレだってさ、お前が生
きてるってさ、お前がこの世に産まれてきた証っていう
さ‥‥」
逃げながらも迫って来るミチロウを捉えていた画面は
(ケンイチが転んだので)乱れる。
(ケンイチが手を離したので)不安定な構図になりながら
も止まった画面の中にミチロウの足下が大きく映ってい
る。
ミチロウの足、苛立たしげに画面に向かって砂を蹴散ら
す。
23 ユミコの日常・モンタージュ
登校途中、友人と楽しそうに歩くユミコ。
× ×
剣道場で、稽古するユミコ。
× ×
ジャージ姿で犬を連れランニングするユミコ。
立ち止まり汗を拭く。
ユミコ、(カメラに)気付き軽く会釈して「あ、こんにち
は」。
× ×
体育の授業中、ソフトボールで、バッターボックスに立
つユミコにズームアップすると、背後でこちら(カメラ)
の方を指差しひそひそ話をしている女子たちの姿が分か
る。
ユミコ、その女子たちに声を掛けられ、一旦はそっちの
方を見るが、こちら(画面の方)を向くと困った様子でバ
ットを置く。
以上の映像にケンイチのナレーションが聞こえて来る。
ケンイチのナレーション「どうやら私が日々ユミコちゃんの姿を
追っていたことがばれたようだ。これもミチロウの成長
記録の一旦に過ぎないのだが‥‥この気持ちはなかなか
通じない。ミチロウはユミコちゃんに振られたのが私の
せいだと思い込んでいる」
24 或る不動産屋
(何かの物陰から撮っているような映像で)店内で昼行灯
のようにぼけっとしたケンイチの姿が映っている。
若い女子事務員にコピーを頼まれるが、受け取った紙束
を床にばらまいてしまうケンイチ。
女子事務員、呆れ果て大きなため息をつきケンイチを無
視して紙を拾う。
気弱な笑みを浮かべてそれを手伝うケンイチ。
ケンイチが拾い終わった紙を奪い取ると自分でコピーす
る女子事務員。
ケンイチ、自分のデスクにつき再び昼行灯。
ミチロウのナレーション「コレがアイツの全てだ。仕事場では相
手にされないもんだから、家族をおもちゃにして喜んで
る。ずっとそうだった!愛情!?ふざけんな!」
25 ミズシマ家・階段 〜 ミチロウの部屋前廊下
主観の映像が階段を上っていき、荒々しい文字で『入室
禁止!』と貼紙のされた部屋の前で立ち止まる。
突然ドアが開き、目つき険しくミチロウが画面を睨みつ
ける。
ミチロウ「うぜぇんだよ!」
力任せにドアを閉めるミチロウ。
ケンイチのナレーション「私はいつだってミチロウのことだけを、
タエコのことだけを思ってきた。しかし、タエコも最近
は‥‥」
26 タエコの日常・モンタージュ(全て隠し撮りされた映像)
老人福祉センターで、老人Aの運動の手伝いをしている
タエコ。
× ×
巡回入浴車で、老人を風呂に入れているタエコ。
× ×
薬局で、メモ片手に成人用おむつを買っているタエコ。
──などなど。
ミチロウのナレーション「昔付き合っていた男の写真をいつまで
も隠し持っている女。ずるい生き物。それが俺の母親だ。
ボランティアをしているのだって息苦しい家庭から、情
けないアイツから、俺から逃げる口実に過ぎない。まっ
たくの偽善」
27 ミズシマ家の生活素描
台所のシンクに溜まった洗ってない食器。
テーブルに食い散らかしたままのコンビニ弁当の空き容
器。
ゴミが溢れているゴミ箱。
洗ってない洗濯物の山。
ケンイチのナレーション「タエコ‥‥お前は何をしてる?他人の
面倒をみてる場合じゃないだろう。心配じゃないのか?
家族のことが、ミチロウのことが‥‥」
28 町の風景の点描
駅の改札から吐き出される通勤通学の人々。
コンビニの前でたむろする小学生たち。
退屈そうな警察官。
八百屋の前で井戸端会議に興じる主婦たち。
風になびく青々とした稲穂。
夕陽に染まった空。
──ありふれた田舎の日常風景。
ミチロウのナレーション「あまりにもありふれていて退屈な毎日。
嘘臭い。こんな町実在していいのか?これって、本当は
みんなが平和な毎日っていうのを演じているだけじゃな
いのか?」
29 中学校・屋上
どこまでも続く青い空を映した印象的な画面の下から
ミチロウがフレームインして。──
ミチロウ「脳みそがかゆい」
(つづく)
| 不機嫌な天使 著者:長濱 英高 |
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