シナリオ 存在の深き眠り 7
◇ 住宅街の道(夜)
肩を落としてトボトボと歩くたけしの後姿。
◇ たけしの家・表(夜)
たけし、門扉の前まで来て入ろうかどうしようか躊躇し
ていると中から正樹と瑞穂が怒鳴り合う声が聞こえてく
る。
正樹の声 「何が不満なんだ!?」
瑞穂の声 「何で分からないの!?」
正樹の声 「俺は十分にしてやってるだろ?」
瑞穂の声 「そういう態度が嫌なのよ!」
ガラスの割れる音、小さく瑞穂の悲鳴が聞こえ、正樹の
怒鳴り声は続く。
たけし 「‥‥」
踵を返し家の前から離れていくたけし。
◇ ある雑居ビル(朝)・表
入居テナントの少ない新しいビル。
雨が降っている。
◇ 同・最上階の階段踊り場(朝)
隅の方で段ボールにくるまって眠っているたけし。
◇ あるコンビニエンスストアー・裏口付近(朝)
雨でずぶ濡れになって賞味期限の切れた食品を漁ってい
るホームレスの男。
たけし、段ボールを傘代わりに一旦はその横を通り過ぎ
るが、ふと足を止めてホームレスの男を見つめる。
たけし 「‥‥」
◇ たけしの家・リビングダイニング(朝)
荒れたままになっている室内に立ち尽くすたけし。
たけし 「‥‥」
窓を伝う雨の雫がたけしの頬に影を落とし、それが、ま
るで涙のように見える。
◇ 運河ぞいの通学路(朝)
通学途中の傘をさした大勢の学生たち。
浮かない表情で歩いているたけし。
たけし 「(何かを見て)!」
たけしの視線の先には亜梨沙。
亜梨沙、たけしと視線が合った途端にそらし早足になる。
◇ ××中学校・2年3組の教室
窓外には雨まだ降り続く。
始業前。
敏之を中心に無駄話に興じる宏明と健吾。
自席で頬杖をつき窓外を見るともなしに眺めているたけ
し。
克夫、来る。
たけし 「(克夫に気付き)‥‥」
克夫の動きを目で追うたけし。
克夫、昨夜のことなどなかったかのようにいつも通りで
自然と敏之たちの話の輪に加わる。
たけし、そろそろと敏之たちに近付く。
たけし 「カッちゃん‥‥」
克夫、明らかに聞こえているが無視する。
敏之 「?カッちゃん、タケが‥‥」
克夫 「ンっ、ああ‥‥」
たけし 「昨日は‥‥」
克夫 「(遮って)ああ、そうだ!新しいファイナルファンタジーやっ
た?」
宏明 「えっ!?買ったの?」
克夫 「当然!」
健吾 「めちゃハマるって、アレ。スッゲー、グラフィックスが綺麗」
敏之 「カッちゃんってば‥‥」
克夫 「今度村野にも貸してやるよ」
敏之 「うん‥‥」
克夫 「あれっ!?貸して欲しくない?」
敏之 「そうじゃないけど‥‥」
克夫 「じゃ、明日持ってくるから」
「次、俺貸して」「俺だよ」「ジャンケンしろよ」とゲー
ムの話に盛り上がる克夫、宏明と健吾たちの会話に加わ
っているものの、いまいち釈然としない敏之。
敏之、ふとたけしを見る。
たけし、目を合わすことなく敏之の視線を避けるように
すごすごと自席に戻っていく。
◇ 同・体育館内の用具倉庫
たけしと敏之がいる。
たけし 「別に‥‥」
敏之 「どう考えたっておかしいべ」
たけし 「そんなことないよ」
敏之 「大体アイツえばり過ぎだし」
たけし 「‥‥何が言いたいんだよ」
敏之 「タケだって本当はアイツのこと嫌いなんだろ?」
たけし 「知らねぇよ」
敏之 「なぁ、二人で組まねぇ?」
たけし 「何のことだよ?」
敏之 「アイツ、ハブ(仲間外れ)にしてやんねぇ?」
たけし 「‥‥俺、帰るよ」
敏之 「沢渡だって深草だってさ、ホントはあいつのこと嫌いなんだ。
ぜってぇ、この話にノるって。だからさ‥‥」
たけし 「俺には関係ない」
敏之 「裏切るのかよ」
たけし 「裏切る?」
敏之 「そうだよ。俺が腹割って話してるのにその態度はないだろ」
たけし 「そっちが勝手に喋ったんだろ」
敏之 「ざっけんなよ!」
たけし 「ふざけてなんかないよ」
敏之 「どうせここから出たらアイツにチクるんだろ?」
たけし 「そんなことしねぇよ」
敏之、その辺にあった棒を手にするとそれで思い切り壁
を叩く。
たけし 「!」
敏之 「約束しろ」
たけし 「分かったよ。分かったからそれやめろよ」
敏之 「信用できねぇ」
たけし 「信用しろよ」
敏之 「じゃあ、土下座しろ」
たけし 「ざっけんな!」
敏之 「じゃあ、信じねぇぞ」
たけし 「‥‥」
敏之 「どうする?」
たけし 「‥‥」
敏之 「タケ、お前あの時蔑んだ目で俺を見てたろ?」
たけし 「あの時?」
敏之 「俺がアイツに松本のシコらされた時だよ」
たけし 「みんな笑ってたじゃないか」
敏之 「違う。お前とアイツは俺をバカにしてた」
たけし 「そんなことないよ」
敏之 「ざっけんなつーの!」
たけし 「‥‥悪かったよ」
敏之 「だから土下座しろって!」
たけし 「‥‥」
たけし、もったりした動作で敏之の前に膝まづき土下座
する。
たけし 「悪かった。信用してくれ」
そのままの体勢で返事を待つたけし。
しかし、返事の代わりにたけしの後頭部に生暖かい液体
がかけられる。
たけし 「な!」
驚いて顔を上げたたけしが見たのは。──小便をしてい
る敏之。
たけしの後頭部にかけられたのは敏之の小便。
敏之 「これから俺に逆らうな」
たけし 「!」
敏之 「お前なんて所詮アイツの金魚のフンなんだからさ」
たけし 「!!」
たけし、我慢の限界。──キレる。
たけし 「ざっけんじゃねぇ!!」
たけし、勢い敏之に殴り掛かる。
不意をつかれた敏之はあっけなく倒れる。
たけし、そのまま敏之に馬乗りになって更に拳を振るう。
たけし、敏之の顔面を殴る。
殴る。
敏之に抵抗する隙を与えず容赦なく殴る。
◇ 同・生徒指導室(夕)
体操着に着替えたたけしが困った顔で腕組みをしている
小島の前に座っている。
間。
部屋外に誰かが来た気配がしたところで、すぐにドアが
開き、武井に案内されてきた瑞穂が姿を見せる。
小島 「(立ち上がり)お母さん、どうもわざわざ‥‥」
──と、小島が言いかけたところで挨拶もそこそこにた
けしに歩み寄りいきなり頬に平手打ちをする瑞穂。
瑞穂 「あんたは!何やってんの、もう!!」
瑞穂、そのまま平手やら拳やらで滅茶苦茶にたけしを叩
く。
小島 「ちょっ、ちょっと‥‥お母さん、冷静に!」
瑞穂、小島の声など耳に入ってない。
腕で頭を抱え防御するばかりのたけし。
瑞穂 「どいつもこいつもロクデナシなんだから!」
小島 「えっ!?」
小島、ふと瑞穂をとめるのをやめ。──
小島 「(小さな声で)はい‥‥すいません」
◇ たけしの家・リビングダイニング(夜)
電灯も点けずにダイニングテーブルで頭を抱えている瑞
穂。
少し離れたところのソファーで瑞穂に背中を向けうつむ
き加減で座っているたけし。
瑞穂、天を仰ぎ大きなため息をつくとたけしの背中を
見る。
瑞穂 「‥‥お父さんそっくり」
たけし、答えない。
瑞穂 「その背中。格好」
たけし 「‥‥」
瑞穂 「嫌だ、嫌だ」
瑞穂、もう一度ため息をつくと吹っ切れたかのように、
食器棚からカップ麺を出しテーブルに置く。
瑞穂 「お母さん、これからお店に行かなくちゃならないから」
たけし 「‥‥」
瑞穂 「聞いてる?」
たけし 「‥‥聞いてる」
瑞穂 「カップ麺で悪いけど、これ食べててね」
たけし 「‥‥」
瑞穂、部屋から出て行こうとしてふと足を止め、たけし
の後姿を見る。
瑞穂 「たけし‥‥ちょうどいい機会だから言っておくわ」
たけし 「‥‥」
瑞穂 「返事したくないなら別にいいけど‥‥」
たけし 「‥‥」
瑞穂 「お母さん、お父さんと離婚するから」
たけし、ふと面を上げる。
瑞穂 「もう決まったから」
たけし 「えっ!?」
瑞穂 「あなたも、もう子供じゃないんだから‥‥お父さんと一緒暮
らすか、お母さんとにするか、あなたが選んでいいから」
たけし、振り向き瑞穂を見る。
瑞穂 「一か月後にお父さんがこの家を出ていくから」
たけし 「ちょっ、急に‥‥」
瑞穂 「決めといてね」
踵を返し姿を消す瑞穂。
たけし 「‥‥」
(つづく)
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