シナリオ 存在の深き眠り 9
◇ 街の風景の点描
◇ たけしの家・表
2トントラックに荷物を積み込んでいる加藤(28)と杉山
(25)。
◇ 同・リビングダイニング
段ボール箱に入れられた荷物が点在している。
努めて平静を装いいつもと変わらぬ調子でテレビゲーム
をしているたけし。
加藤、来て段ボールを持ち上げると。──
加藤 「(奥に向かって)課長!これもトラックに積んじゃっていいんで
すかぁ!?」
正樹、奥から顔を出し。──
正樹 「ああ、それかぁ‥‥頼む!」
加藤 「はい!」
加藤、チラッとたけしを気にしてから荷物を運び出す。
加藤と入れ替わりに来た杉山、荷物を持つとふとたけし
の横で足を止め。──
杉山 「君も大変だな、これから」
たけし 「(チラッとこなしただけで)別に‥‥」
苦笑いを浮かべ行く杉山。
たけしの携帯電話が鳴る。
番号は非通知になっている。
たけし 「?」
たけし、「はい」と電話に出るがすぐに切れてしまう。
たけし 「??」
◇ ××中学校・廊下
人気がなく静まり返った片隅に携帯電話を持った克夫が
いる。
克夫 「‥‥」
克夫、携帯電話をポケット入れると静寂を縫うように歩
く。
◇ たけしの家・表
加藤と杉山が乗り込んだトラックの横に立っている正樹。
加藤 「じゃぁ、先に行ってますから」
正樹 「悪いな。変なこと頼んじゃって」
加藤 「気にしないで下さいよ」
正樹 「ホント、すまない」
杉山 「じゃ、課長、荷物下ろしときますんで」
正樹 「頼む」
軽く挨拶をしてからトラックを走らせる杉山。
正樹、見送ってから家に入って行く。
◇ ××中学校・屋上
克夫、縁を歩いている。
歩く、歩く、歩く克夫。
克夫、何の前触れもなく突然飛び下りる。
◇ たけしの家・リビングダイニング
ピザを食べているたけしと正樹。
正樹 「たけしと最後の晩餐がピザとはな‥‥」
たけし 「おいしいよ」
正樹 「そうだな」
黙々と食べる二人。
間。
正樹 「‥‥お母さんと一緒でいいのか?」
たけし 「お母さん、女だからね」
正樹 「そうか‥‥」
たけし 「あの‥‥」
正樹 「何だ?」
たけし 「(首を横に振って)なんでもない」
正樹 「‥‥そうか」
たけし 「一生会えなくなるわけじゃないじゃん」
正樹 「(苦笑して)まぁな、そうだけどな」
たけし 「そうだよ」
正樹 「でもなぁ、違うんだよなぁ」
たけし 「そうかな?」
正樹 「あーあ、何でこんなことになっちゃったんだかなぁ」
たけし 「こっちが聞きたいよ」
正樹 「一生懸命に働いてただけだったのになぁ」
たけし 「‥‥」
正樹 「この家だってな、お母さんを喜ばせようと思って無理したん
だ」
たけし 「知らないよ」
正樹 「(独り言のように)それがなぁ‥‥どこでどうすれ違ったかな
ぁ」
たけし 「‥‥」
正樹 「‥‥たけし」
たけし 「何?」
正樹 「父さん、よく分からないんだ」
たけし 「何が?」
正樹 「‥‥人は何のために生きてるんだ?」
正樹、突然、込み上げてくるものを押さえ切れず口元を
押さえるとたけしの目も気にせずに嗚咽を漏らす。
◇ 同・表(夕)
出て来るたけしと正樹。
正樹 「(立ち止まり)ここでいいよ」
たけし 「でも‥‥」
正樹 「恥ずかしい」
たけし 「そう?」
正樹 「‥‥お母さんは今日も遅いのかな?」
たけし 「さぁ‥‥」
正樹 「じゃぁな、元気でな」
たけし 「うん」
力のない笑みを浮かべると踵を返し行く正樹。
トボトボと歩く正樹の後姿を見つめるたけし。
たけし 「お父さん!」
正樹、振り返らずに軽く手を挙げるだけ。
たけし 「‥‥」
◇ 同・リビングダイニング(夕)
薄暗い室内にたけしの携帯電話が鳴っている。
◇ ある寺・境内(夜)
克夫の葬儀が営まれている。
しめやかに続く学生たちの葬列の中にいるたけし。
亜梨沙とみゆき、すすり泣き焼香をしている。
亜梨沙、焼香を終えると全身の力が抜けてしまい、みゆ
きに抱えられるようにしてその場を辞す。
焼香はたけしの順番になる。
祭壇の前に座っている親族たちに一礼するたけし。
たけし 「?」
たけし、会葬者から一番近い席に座っている中年男(克夫
の父・雄二・45)に目がいく。
雄二は、妙に落ち着きがなく貧乏揺すりをしていたかと
思ったら、時計を見たり会葬者にお愛想の笑みを浮かべ
たりして、明かに不自然で挙動不審。
たけし、それが気になるが焼香を終わらせる。
雄二、たけしが焼香を終えると同時に読経が続いている
というのに席を立ち式場を出ていく。
◇ 同・受付(夜)
香典の額を確かめている会計係男女二人のところへくる
雄二。
会計係男 「まだお式中じゃ‥‥」
雄二 「(遮って)いくら集まってる?」
会計係女 「まだちょっと‥‥」
雄二 「貸せ!」
雄二、計算途中の香典を強引に奪い取り札の枚数を数え
始める。
雄二 「ンだよ、たったこれだけか。ふざけんな。お前らちょろまか
してないだろうな!?」
会計係男 「とんでもない!」
雄二 「フンッ!まあいい」
唾を吐き金を持ってその場を後にする雄二。
会計係の男女、呆れて顔を見合わせる。
◇ 同・人気のない場所(夜)
人相の悪い男二人に卑屈な調子で金を渡している雄二。
人相の悪い男A「55万ね‥‥ガキの葬式だとたいして香典集まんねぇな」
雄二 「今月はこれでなんとか‥‥」
人相の悪い男A「しようがねぇな。で、おっさんよぉ、来月はどうやって
返済するんだ?」
雄二 「それはまた考えますから‥‥」
人相の悪い男B「保険かけとけば良かったな、ガキにさ」
雄二 「ホント、そうですよね。でも、まさか死ぬなんて思ってなか
ったもんですから」
人相の悪い男A「そりゃ、そうだ。ま、次はおっさんが自殺するか?保険
かけてよ!」
雄二 「アハハハ、ご冗談を!」
人相の悪い男B、雄二の肩を抱え込み。──
人相の悪い男B「(ニヤけて)ま、これがまんざら冗談でもないんだけどな
ぁ」
人相の悪い男A「残金1682万。どうやって返してもらえるか楽しみにし
てるよ(人相の悪い男Bに)行くぞ」
人相の悪い男B、雄二を突き放す。
その拍子にその場に尻餅をつく雄二。
人相の悪い男B「いつでも相談にのるからね。じゃっ!」
その場を去る人相の悪い男AとB。
雄二、その後姿を見送ってから乾いた笑いをこぼし立ち
上がろうとしたところに。──
「おじさん‥‥」
──と、声がかかるので必要以上に驚いて再び尻餅をつ
く。
声をかけたのは、たけし。
たけし 「‥‥(遠慮がちに)カッちゃんのお父さん?」
雄二 「な、何だ!?子供か!?驚かすんじゃねぇ!」
立ち上がり体裁を繕う雄二。
たけし 「すいません‥‥あの、僕、カッちゃんの友達で中原っていい
ます」
雄二 「(適当な感じで)ああ、そりゃどうも‥‥今日は来てくれてあ
りがとね」
雄二、その場を去ろうとする。
たけし 「あの‥‥」
雄二 「何だよ。まだ葬式の途中なんだから」
たけし 「すいません。でも‥‥」
雄二 「だからぁ、何だって言うんだよ」
たけし 「カッちゃんは何で自殺なんかしたんですか?」
雄二 「は?」
たけし 「どうして自殺なんかしたんだと思いますか?」
雄二 「知るか!?」
たけし 「でも、お父さんなら何か心当たりがあるじゃないかと思って
‥‥」
雄二 「何だ!?このガキは!!」
たけし 「さっきのお金‥‥借金ですか?」
雄二 「お前、俺が克夫を殺したとでも言うのか!?ああ!!?」
たけし 「そんなこと言ってません!僕はただ‥‥」
雄二、まるで威嚇するかのようにたけしににじり寄る。
雄二 「あのガキはな、勝手に死んだんだ!飛び下りてな!!」
たけし 「だから!」
雄二 「うるせーっ!!」
雄二、叫ぶなりたけしをはり倒す。
雄二 「お前らガキに何が分かる!?えっ!?」
雄二、たけしの横っ腹を蹴る。
雄二 「いつだって涼しい目つきしやがって!いつだって自分が全部正
しいようなツラしやがって!」
たけし、雄二の足にすがりつきとめようとする。
たけし 「やめて下さい!」
雄二 「離せっ!」
食い下がるたけしを必死になって振り払おうとする雄二。
たけし 「やめて‥‥やめろー!!」
雄二 「クソッ!!こんなことならアイツらが言うように克夫に保険か
けておくんだったよ!!クソッ!!」
たけしを振り切った雄二は勢いそのままたけしに暴行を
続ける。
そこに、騒ぎを聞き付けた小島がやってきて。──
小島 「ちょっ、ちょっと、お父さん!!峰岸さん!」
小島、言いながらとめようとするが、雄二は小島にさえ
拳を振るう。
雄二 「センコウもグルかっ!?上等だ!来いっ!!」
防戦一方の小島に、滅茶苦茶に身体を動かし暴力を加え
る雄二。
小島 「だ、誰か!警察!!警察を呼んで下さい!!」
騒ぎはあっという間に大きくなり、いつの間にかたけし
は蚊帳の外に置かれる。
たけし、気をしっかりさせようと首を振る。
次の瞬間、全ての音が消える。
そして。──
錯覚。
時間がゆっくりと流れていく。
目の前で繰り広げられている光景を信じられないたけし。
たけし 「‥‥」
たけしの中で何かが動く。
たけし、大きく口を開け。──叫ぶ。
──が、その叫びは声にならない。
(つづく)
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