2007-07-04

シナリオ『電影マニアックス』15・最終回


95   フェードインして。──
          重そうな鉄の扉を写した画面に、『2006年 4月』と書
          かれたテロップが浮かび上がる。
          テロップフェードアウトして、パンされた画面に『××
          刑務所』と書かれた看板と姿勢正しく立つ刑務官の姿が
          見えてくる。
ケンイチの声「もうそろそろ出てきてもいい頃なのですが‥‥約
     束の時間はとうに過ぎてます。あっ!」 
          鉄扉の向こうから坊主頭のミチロウが姿を見せる。
          恭しく刑務官に挨拶をすると(ケンイチの方に向かって)
          歩いてくるミチロウ。
          ミチロウ、途中で(カメラを構えているケンイチに気付
          き)一瞬立ち止まるが、はにかんだような笑顔を浮かべ
          再び歩き出す。
          画面の中でバストサイズくらいになり立ち止まるミチロ
          ウ。
ミチロウ「わざわざ来てくれなくっても良かったのに」
ケンイチの声「何言ってんだ。こんな大事な日に」
          「ほら」とケンイチの声がして、ミチロウの前にビデオ
          カメラが差し出される。
          ビデオカメラをじっと見つめるミチロウ。
ケンイチの声「何だ?」
          (ことあとは別のカメラによってフルサイズで捉えられ
          た二人の映像になり)ミチロウ、やんわりとビデオカメ
          ラを差し戻す。
ケンイチ「どうした?」
ミチロウ「色々考えたんだ」
ケンイチ「何を?」
ミチロウ「俺‥‥ビデオカメラはもういらない」
ケンイチ「えっ?」
ミチロウ「もう終わったんだ」
ケンイチ「ミチロウ、お前‥‥」
          そのケンイチの声を遮るように、どこからか「カーッ
          ト!」と大きな声が聞こえくる。         
          固定されたカメラの画面の背後から女がフレームインし
          てきて二人に近づいていく。
          女は。──
ミチロウ「(ケンイチカメラの映像)母さん!」
          (固定カメラの映像)タエコ、黙ったままケンイチからビ
          デオカメラを奪い取りスイッチを入れると戸惑うばかり
          のミチロウに渡す。
タエコ「(有無をも言わせぬ迫力で)はい!ミチロウ、構えて」
          ミチロウ、条件反射的にビュワーを覗き込むとタエコ
          にレンズを向ける。
          (ミチロウカメラの映像)にっこり笑うタエコのアップ。
タエコ「ミチロウ、あんたね、今のじゃNGよ」
ミチロウ「(ケンイチカメラの映像)ちょっ、ど、どういうこと?」
タエコ「(ミチロウカメラの映像)だからぁ、セリフがNGなの」
ミチロウ「(ケンイチカメラの映像)セリフって‥‥」
タエコ「(ミチロウカメラの映像)何が『もう終わったんだ』、よ。
     ふざけないで」
ミチロウ「(ケンイチカメラの映像)わけ分かんないよ!」
タエコ「(ミチロウカメラの映像)何も終わってないのよ。これか
     らじゃない」
ミチロウ「(ケンイチカメラの映像)えっ?」
タエコ「(ミチロウカメラの映像)これから始まるんだから」
          (固定カメラの映像)踵を返し(固定カメラの方へ)小走り
          で戻って来るタエコ。
          タエコ、画面の背後に回り込み。──
タエコの声「じゃ、もう一度、やり直し!」
ミチロウ「(ケンイチカメラの映像)何を!?」
          画面、カットアウト。


(おわり)
  

……さて、ブログの読み物としては長々と綴ってしまいましたが、
最初から最後まで読んで頂けたでしょうか?
もし、そんな貴重な方がいらっしゃいましたら、是非、コメントを下さいね。

そして、全部を通して再読する方はカテゴリー『電影マニアックス』を
押して頂ければ、シナリオだけの表示になります。

また、もしももしも映画関係者の方、はたまたお金があって
映画を作りたいと思ってらっしゃる方でこれを読まれた方がいて、
『面白いっ!』と感じて頂けたら、是非ご一報ください。

それから、僭越ではありますが、拙著『不機嫌な天使』を
お買い求めいただけたら嬉しゅうございます。
よろしくお願いします。(切なお願い・笑)
  



不機嫌な天使

Book
不機嫌な天使

著者:長濱 英高

販売元:文芸社

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なお、シナリオ『電影マニアックス』の著作はすべて長濱英高に帰属します。
盗作などがありましたら、法的手段に訴え出ることも辞さない所存です。

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2007-07-03

シナリオ『電影マニアックス』14

90   フラッシュ
          画面に話しかけるタエコ。
タエコ「ハロー、大人になったミチロウ君」
            ×          ×
          コテージの中、目を輝かせてみて回り、いちいち歓声を
          上げるミチロウとタエコ。
            ×          ×
          夜道を歩いているケンイチの裸足の足。
ケンイチの声「‥‥実はそろそろ大丈夫かなと思ったのですが‥
     ‥ここだけです。私の家族がいるのはここだけです」
            ×          ×
          笑顔でビデオカメラを回しているケンイチ。
ミチロウのナレーション「不意に親父のことが、おふくろのこと
     が頭をよぎる」

91   イメージ
          電車の車窓を流れる風景。
ミチロウのナレーション「あんなクソな両親、クソな町、とうに
     捨てたはずなのに‥‥何でだ?」
          木々の茂みの間から見上げた空。
          泥だらけの自分の足元。
          割れた鏡にやつれた顔で映るカメラを構えたミチロウ。
          薄暗い路地を行く主観映像。
          雨に濡れた野良犬。
          ──などなど、心象風景的映像が綴られていく。
ミチロウのナレーション「アイツは異常だった。血が繋がってな
     いからと、執拗に俺の成長記録を残そうとした。それが
     家族の証だと信じて疑わなかった。おふくろもおかしい。
     俺がアイツの本当の子じゃないことひたすら隠し続けた。
     それがいつか俺が知ることも想像出来ずに‥‥。愚かだ。
     下らないよ」

92   街の風景の点描
          駅の改札から吐き出される通勤通学の人々。
          コンビニの前でたむろする小学生たち。
          退屈そうな警察官。
          八百屋の前で井戸端会議に興じる主婦たち。
          風にたなびく稲穂。
          夕陽に染まった空。
          ──ありふれた田舎の日常風景。
ミチロウのナレーション「あまりにもありふれていて退屈な毎日。
     だけど、今の俺にはこの退屈な日常風景が、嫌になるほ
     ど新鮮で、嘘くさいほど懐かしい。チクショウ、ふざけ 
     けんな、俺!」

93   画面一杯に広がる水面
          太陽光が反射してゆらゆらと揺れている。
          石が投げ込まれ波紋を広げる。
ミチロウのナレーション「川はただ流れている。水の粒子の一つ
     一つは結構複雑で個性的なのかもしれないが、実際のと
     ころは分からない。上から見ても、ただ退屈に流されい
     る無個性な集団でしかない‥‥か。そうなのか‥‥本当
     にそうなのか?」
          「ミチロウ君?」と、聞こえた声に画面は水面からパン
          されると、そこには自転車を横に従え剣道具を背負った
          ミチロウと同じ年頃の女の子が立っている。
ミチロウの声「ユミコ‥‥ちゃん?」
ユミコ「やっぱりそうだ」
          にっこり笑うユミコ。
            ×          ×
          (自転車の荷台に置かれたカメラからの映像で)竹刀を持
          ち剣道の真似事をしているへっぴり腰のミチロウと泰然
          としたユミコ。
          ユミコ、気合い一声ミチロウの竹刀を弾き飛ばす。
ミチロウ「ちょっと!ちょっと、タイム!」
          ミチロウ、汗びっしょりで荒い息をつきながら大の字に
          寝転がる。
ユミコ「もーう、だらしないなぁ」
          ユミコ、言ってから画面に近づいてくると手を伸ばす。
          (カメラをユミコが持ったので)画面は、寝転がっている
          ミチロウを見下ろすようなアングルに入る。
ユミコ「相変わらず弱っちいミチロウ君です。へたばってます」
ミチロウ「うるせー」
          ミチロウ、手を伸ばして画面を塞ぐ。
            ×          ×
          膝を抱えて座っているミチロウの横顔。
ミチロウ「ダイチが居酒屋の店長かよ。大丈夫なのかね、その店」
ユミコの声「いつ行ってもお客さん一杯入ってるよ」
ミチロウ「へぇー」
ユミコの声「リク君は市役所勤め。ソラ君は自動車整備工」
ミチロウ「ユミコ‥‥ちゃんは?」
ユミコの声「私は相変わらず剣道三昧」
ミチロウ「そう‥‥」
ユミコの声「今度一般の部で全国大会に出場することになった」
ミチロウ「すげぇじゃん!」
ユミコの声「剣道馬鹿?」
ミチロウ「そんな‥‥」
ユミコの声「ミチロウ君こそ凄いじゃない。ネットで見たよ。最
     先端を行く映像作家」
ミチロウ「どうだか」
          視線をそらし遠くを見るミチロウ。
ユミコの声「郷土の誇り?」
ミチロウ「何言ってんだよ。そんなんじゃ‥‥ない」
ユミコの声「うううん、そんなことある」
ミチロウ「‥‥ニュース、見てないのか?」
          画面は、問いに沈黙で答えたユミコが「これ返すね。私、
          練習に行かなくっちゃ」と言いながら(ミチロウにカメ
          ラを渡したので)乱れた様子を見せたあと、自転車に乗
          るユミコを映し出す。
          振り返るユミコ。
ユミコ「じゃぁ!」
ミチロウの声「うん」
          微笑みを返し去るユミコの後姿がみるみる小さくなって
          いく。
ミチロウのナレーション「みんな‥‥頑張ってるんだ」

94   画面は。──
          歩くミチロウの足元を写している。
ミチロウのナレーション「俺は‥‥何でこの退屈な町に戻ってき             
     たんだ?いくら考えても、いくら言葉を尽くしても、答
     えは‥‥出ない」
          画面、パンアップされるとそこに映し出されたのは『水
          島』の表札が掛かった玄関。
ミチロウのナレーション「この向こうにその答えがあるのか?」
          画面、フィックスのまま、そのまま。
          そこに突然、いかつい顔の男が二人、フレームインして
          くると警察手帳を掲げる。
          男二人は刑事。
刑事A「ミズシマミチロウだね」
      ミチロウの声「はい」
          刑事B、逮捕状を見せる。
刑事B「強盗殺人及び死体遺棄の容疑で‥‥」
          画面は、(ミチロウが刑事を突き飛ばし家の中に入って
          行こうとしたので)突然乱れ「おとなしくしろ!」「コラ
          ッ!」など、刑事の怒声を伝えたあと、(ミチロウが刑
          事に取り押さえられカメラが手から離れたので)不安定
          な構図で玄関を映し出す。
ミチロウの声「(叫び)離せー!」
          画面の隅で地面に押し付けられたミチロウの手に手錠が
          掛けられる様子が見える。           
刑事B「16時52分、逮捕」
ミチロウの声「(叫び)外せー!」
          (ミチロウカメラとは違うカメラの)慌てた様子で乱れた
          主観映像が、玄関のドアを開け刑事二人に拘束されてい
          るミチロウの姿を映し出す。
          ミチロウ、驚いて画面を凝視。
ミチロウ「親父!」
ケンイチの声「ミチロウ!カメラを持て!」
ミチロウ「!」
ケンイチの声「そのままでいいのか!記録しなくていいのか!」
ミチロウ「‥‥」
          力を振り絞りカメラに手を伸ばすミチロウ。              
          (ミチロウが手にしたカメラの映像)画面は、乱れた様子
          を見せながらもカメラを構えてこちらを撮っているケン
          イチの姿を捉える。
ケンイチ「そうだ!いいぞ、ミチロウ!」
          ケンイチの背後に現われその場に泣き崩れるタエコ。
ミチロウの声「母さん‥‥」
          (ミチロウに肉迫するケンイチカメラの映像)刑事AB、
          (ケンイチの迫力に押され)ミチロウを押さえつけていた
          手の力を緩める。
          ミチロウ、ゆっくりと立ち上がり手にしていたカメラの  
          レンズをケンイチに向ける。
          (ミチロウカメラの映像)カメラを構えているケンイチ。
ケンイチ「(微笑み)おかえり」
          (ケンイチカメラの映像)カメラを構えているミチロウ。
ミチロウ「(微笑み)ただいま」
          頬を一筋の涙が伝い。──ミチロウ、何だかおかしくな
          ってきて笑いが漏れる。
ケンイチの声「何だよ?何がおかしいんだよ」
ミチロウ「だって‥‥だって‥‥」
          (ミチロウカメラの映像)ビュワーから目を外すケンイチ。
ケンイチ「ミチロウ‥‥」
ミチロウの声「何?」
ケンイチ「面白い記録が撮れたな」
          (ケンイチカメラの映像)ビュワーから目を外すミチロウ。
ミチロウ「そう‥‥そうだね」
          ミチロウ、泣き笑い。
ケンイチの声「おーい、母さん!飯、飯だ!」
          画面、泣き笑い続けるミチロウからパンされ、「刑事さ
          んも一緒に食べてって下さいよ」と言うケンイチに戸惑
          いを隠せない刑事ABが映る。
          ──フェードアウト。


(つづく)
  


  



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2007-07-01

シナリオ『電影マニアックス』13


81   真っ白い部屋の片隅に砂嵐が映った大きなモニターがある画面の中。──
          ──ミチロウがフレームインして来て、モニターに近づ
          いていく動きに併せゆっくりズームアップされる。
          フレームインして来たミチロウは、モニター画面に寄っ
          ていくズームアップの画面の動きより遅く再びフレーム
          アウトするが、次の瞬間、あたかもそのまま入って行っ
          たかのような錯覚でモニター画面の中に姿を見せる。
          ズームアップは、モニター画面のフレーム一杯のところ
          で止まる。
          モニター画面内のミチロウ、不思議そうに辺りをキョロ
          キョロしていたかと思ったら、何かに気付いたようにカ
          メラ目線になり、画面を内側から叩き叫ぶが、声は聞こ
          えない。
          画面、ゆっくりズームバックしていき、モニターしか置
          かれてない真っ白な部屋全体を捉える。                    
          モニター画面の中のミチロウ、何を思ったのかふと叩く
          のをやめこちら側をじっと見つめる。
          カットが変わりモニター画面のアップ(ミチロウのアッ
          プ)になる。
          ミチロウ、不適な笑みを浮かべる。

82   止まっているワンボックス車・内(夜)
          画面に向かってシバが。──
シバ 「イェーイ!また会ったね、俺、シバ」
          画面、急ぎパンされ車の外で鳩が豆鉄砲を食らったよう
          な顔をしているトキコになる。
ミチロウの声「行くよ!ドライブ!イェーイ!」

83   走るワンボックス車の車窓に流れる風景からパンされて。──(夜)
          戸惑うばかりで居場所のないトキコを映した画面の端か
          らミチロウの手が伸びてきて。──
ミチロウの声「アレ、持ってきた?」
トキコ「え?」
ミチロウの声「タイムカプセル」
トキコ「‥‥うん」
ミチロウの声「貸して」
          不承不承鞄からタイムカプセルを出し画面の端から伸び
          ているミチロウの手に渡すトキコ。
          ミチロウの手、タイムカプセルを画面の中でゆっくり回
          す。
ミチロウの声「シバ、ちょっと持ってて」
シバ 「おい、マジかよ?運転中よ、俺」
          「頼むよ」とミチロウの声がして、(シバにビデオカメ
          ラを渡したので)画面は少し乱れた様子を見せたあと、
          タイムカプセルをしげしげと見つめるミチロウを映し出
          す。
ミチロウ「これがね‥‥」
          「ミチロウ君、あの‥‥」とトキコの声に「ちょっ‥‥
          運転中だってば」と聞こえるシバの声と共に不安定なパ
          ンがされ、後部座席を捉えた途端、映ったトキコが悲鳴
          を上げる。
シバの声「な、何!」
          画面、再びパンされてタイムカプセルをこじ開けている
          ミチロウが映ってくる。
          「やめ、やめて!」と言いながら画面にフレームインし
          てきたトキコに意地悪するようにタイムカプセルを渡す
          まいとしながら更に開け続けるミチロウ。
          タイムカプセル開いて中から出てきた幼稚園児が描いた
          絵やおもちゃなどをシゲシゲと見つめるミチロウ。
          「貸して」と言いながら手を伸ばしてきたミチロウに、
          (シバがカメラを渡したので)画面は乱れた様子を見せた
          あと、タイムカプセルから出てきた物のアップになる。
          「酷い‥‥‥ミチロウ君、酷い」と泣き声に画面はパン
          され、うつむくばかりのトキコを映す。
ミチロウの声「酷い?俺が?」
トキコ「そ‥‥そうよ。(突然堰を切ったかのように)大切な思い
     出をグチャグチャにしたり!急にいなくなるし!私が撮
     られるの嫌だって知ってるのに!ビデオやめるって‥」
ミチロウの声「(みなまで言わせず、激昂)どっちが!どっちが酷
     い!?き、記録するのは俺の存在証明なんだ!アイディ
     ンティティなんだ!俺は映像作家様だぞ!それをやめろ
     だと?!AVを撮れだと!ふざけるな!思い出だぁ!そ、
     そんな物が何の役に立つ!?あ?」
シバ 「そうだ、そうだ!もっと言ってやれ!」
          トキコ、怯えるばかり。
ミチロウの声「テメェらみんなふざけんな!」
          画面、ミチロウがタイムカプセルを中身もろとも投げ捨
          てる様子を見せてからうつむき泣き続けるトキコにパン
          された時、その背後で人の呻き声が聞こえてくる。
シバの声「ヤベェよ。目ェ覚ましちゃったよ」
          呻き声の主は辺りを引き裂くような叫び声を上げながら、
          いきなりトキコの背後に姿を見せる。
          姿を見せたのは。──血に塗れた顔を恐怖に引き攣らせ
          たクミ。

84   森に停められたワンボックスカーのリアーハッチが開けられ。──(夜)
          首から血を流し死んでいるミヤマの姿が現れる。

85   同・鬱蒼と生い茂った林の中(夜)
          画面、車内で放心しているクミを背後にしゃがみ込み泣
          きじゃくるばかりのトキコからパンされると、ヘッドラ
          イトに照らされ穴を掘っているシバの姿が見えてくる。
シバ 「(手を休め)このくらいでいいだろ、ミチロウ」
          シバが掘った穴に近づく画面。
ミチロウの声「いいんじゃない」
          画面、車の背後に回り込むのと同時にシバも来て、(カ
          メラを構えたままのミチロウと一緒に)ミヤマの遺体を
          運ぼうとする。
ミチロウの声「片手じゃ無理だな‥‥トキコ!手伝えよ」
          パンされた画面には首を横に振るばかりのトキコが映っ
          てくる。ミチロウ、トキコの手を引っ張るが、トキコは
          突然しゃがみこんで嘔吐。
ミチロウの声「ンだよ。使えねぇな」
シバ 「何しに来たんだよ」
ミチロウの声「もたもたしてらんないな」
          画面は、(ミチロウがミヤマの足を抱えようとしたので)
          死顔のアップになったところに、「信じられない」と、
          か細い声が聞こえてきたので一瞬(ミチロウの動作が)
          止まり、次に乱れた様子を見せた直後怯えるトキコに肉
          迫する。
ミチロウの声「トキコ、君は何か勘違いしてないか?」
トキコ「な、何を?」
ミチロウの声「だってさ、殺人死体遺棄現場だよ。こんな事実に
     はなかなか遭遇出来ないんだよ」
トキコ「‥‥何言ってるの?」
ミチロウの声「せっかくめったに出来ない体験をさせてあげてる
     のに‥‥」
トキコ「変、変だよ、ミチロウ君」
ミチロウの声「こんなに面白い記録なのに‥‥」
トキコ「もうやめて!」
ミチロウの声「トキコ‥‥マジでつまんないよ」
トキコ「!」
            ×          ×
          穴に投げ落とされるミヤマの死体。
シバ 「足が‥‥」
          穴からはみ出したミヤマの足を乱暴に押し入れようと蹴
          るミチロウの足。
ミチロウの声「こんなもん」
          ミチロウの足、蹴る、蹴る、執拗に蹴る。
          その時、「乗って!」と叫ぶ声と共に車のドアが乱暴に
          閉められる音が聞こえてきたので画面、急ぎパンされる
          と、運転席のクミがトキコを車内に引き摺り込み、今ま
          さに発車しようとしているところ。
シバ 「テメ、この!」
ミチロウの声「いいよ!放っておけよ」
シバ 「でも!」
          車、急発進して猛然と走り去る。
シバ 「クソッ!」
          遠ざかるテールランプが一瞬赤く光り闇に消える様子が、
          微妙に揺れる画面に映る。

86   山の稜線に昇ってくる太陽(早朝)

◇ シバ、画面に向かって迫ってきて。──(早朝)
シバ 「元気でな!捕まるなよ!」
ミチロウの声「お前もな!」
          シバ、満面の笑みを浮かべる。

87   人気のない山の麓の道(早朝)
          画面から遠ざかるシバの後姿。  
          シバ、後姿のまま手を振る。
ミチロウのナレーション「知ってた。泳げたいやき君の歌は‥‥
     でも、シバ‥‥君は覚えてないんだろう。腹の減ったた
     いやき君は、釣り針に付いた餌に食いついて、最期には
     浜辺で見知らぬおじさんに食べられちゃうんだぜ」

88   田舎の鄙びた電気屋・表
          街頭テレビにズームアップ。
          テレビ画面では、或る森の中を捜索する警察官たちをバ
          ックにアナウンサーがレポートしている。
アナウンサー「‥‥共犯と思われる若い男は逮捕。現在取り調べ
     を行っています。また、主犯格とみなされている自称映
     像作家の男は逃走中。行方を捜索中です」

89   或る公衆便所・内
          (どこかに置かれたカメラの映像で)無精髭を剃っている
          ミチロウ。
          ミチロウ、フレームからいなくなり小便をする音が聞こ
          えてくる。
ミチロウのナレーション「逃げ場がなくなった」


(つづく)
  


  



不機嫌な天使

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不機嫌な天使

著者:長濱 英高

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2007-06-30

シナリオ『電影マニアックス』12

76   テーブルの上に叩き付けられる百万円の札束から。──
          パンされると画面を睥睨するミヤマが見える。
          ここは、『ミヤマ企画』の一室。
ミチロウの声「いいんすか?」
ミヤマ「ああ、貸したる」
ミチロウの声「ありがとうございます」
ミヤマ「ミチロウ‥‥勘違いすんなや」
ミチロウの声「え?」
ミヤマ「AVじゃ。これからはAV撮れや。それが条件や」
          ミチロウの返事はない。
          思い切り机を叩いて威嚇するミヤマ。
ミヤマ「簡単やろが!適当に女ナンパして今まで通りのことすり
     ゃええんじゃ」
ミチロウの声「俺は‥‥そんなの撮ってない」
ミヤマ「お前のつもりなんかどうでもええ、煮詰まっとるから頭
     下げて仕事貰って来てやったんじゃ!お前が撮れば話題
     にもなる!売れる!借金なんかせんでようなる!良いこ
     とづくめや!感謝せえや!」
若い女の声「どうかしましたぁ?」
          声のした方へパン。編集室から若い男女が顔を出してい
          る。
若い女「あ!ミチロウ!さん!(慌てて付け加える)」
若い男「…ども」
          女は目を輝かせているが、男は不敵な目でミチロウをジ
          ロジロと見る。
ミヤマ「おお、ちょうどええ。紹介しとくわ、タキノとイシダ」
          軽く会釈をする二人。
ミヤマ「なかなかエエもん撮るんや。お前のもよう研究しとるで。
     (二人に)もうええで、続けてや」
          二人、編集室へ引込む。
ミヤマ「これからはアイツらにお前の路線を引き継がせる」
ミチロウの声「へっ、アイツらに才能があるようには見えないけ
     どね」
ミヤマ「まだ判らんのか!会社はコンスタントに儲け出してかな
     あかんのや!お前の気まぐれ頼りじゃ成立せんのじゃ!
     ガキの遊びやない。判ったらえぐいエロエロなビデオ撮
     れや!」
          ミヤマ、言うや札束を鷲掴みにすると画面に向かって投
          げ付けた時にスローモーションになり、帯が切れた札束
          がバラになる。
          画面の中をヒラヒラと舞う札、札、札。

77   (暗視カメラの映像で)『ミヤマ企画』のドアが開けられる(夜)
          画面、パンされてミヤマ企画に入って行くシバの後姿が      
          映る。
          シバ、振り向き画面の方を見て不適な笑みを浮かべる。

78   小洒落た居酒屋・店内(夜・過去)
          爪を噛み思案に暮れるシバ。
ミチロウの声「悪い、つまらん話だな」
シバ 「‥‥クソッ」
ミチロウの声「AV撮るよ‥‥面白そうだしな」
シバ 「みんなクソだ。ミチロウ‥‥」
ミチロウの声「何だよ?」
シバ 「お前は俺らの誇りなんだ」
ミチロウの声「何だよ急に‥‥」
シバ 「今まで通り自由に撮れよ」
ミチロウの声「どうしろって言うんだよ」
シバ 「スカッとしようぜ!イェー!」
          シバ、ちょっと考えてからにっこり笑い画面に向かって
          中指を立てる。

78   (暗視カメラの映像で)『ミヤマ企画』・一室(夜)
          鍵穴にピッキング道具が突っ込まれた金庫のダイヤルを
          真剣な表情で回しているシバ。
ミチロウの声「やっぱりやめよう」
シバ 「シッ!今更‥‥ビビんなって」
ミチロウの声「‥‥」
シバ 「ミチロウ‥‥」
ミチロウの声「何だよ」
シバ 「こないだ言ったことはホントなんだぜ」
ミチロウの声「何だっけ?」
シバ 「(舌打ちして)誇り。お前は俺の誇りだってこと」    
ミチロウの声「やめろよ」
シバ 「‥‥ずっと昔『泳げたいやき君』って歌があったじゃん」
ミチロウの声「ちょっと‥‥知らない」
シバ 「そうか?(鼻歌で)毎日毎日僕らは鉄板の上で焼かれてや
     になっちゃうよ、ってヤツ」
ミチロウの声「何その歌?たいやきだもん、当たり前じゃん」
シバ 「(苦笑い)ま、な」
ミチロウの声「それが?」
シバ 「要するに俺は焼かれちまうたいやきでさ‥‥」
ミチロウの声「わけ分かんねぇ」
シバ 「お前は海に出たたいやきなんだよ」
ミチロウの声「何言ってんだよ」
シバ 「‥‥生きてる目的がちゃんとある。お前には」

79   ガソリンスタンドで働くシバ、酒を煽りナツミの髪の毛を引っ張り回すノ
 ムラ、働くアヤ、腕立て伏せをするミヤマ、(新興宗教の偶像)ネジマキ様に
 祈りを捧げるクミ。──など、ミチロウの仲間たちの日常を写した映像が真
 っ白な壁に映写されている中に立っているミチロウのアップ
ミチロウ「(カメラ目線で)目的?そんなこと考えたことない」

80   (暗視カメラの映像で)『ミヤマ企画』・一室(夜)
          金庫のダイヤルが小気味いい音をたてる。
シバ 「ビンゴ!」
          シバ、扉を開けると中には数百万の札束が積まれている。
ミチロウの声「すげぇ‥‥」
シバ 「全部、お前が稼いだ金だよ。お前が使え」
ミチロウの声「ピンとこない」
シバ 「急ごう」
          言うやシバが札束を鞄に詰め始めた時、背後でドアが開
          けられた音と共に人が入ってくる気配に二人は身を潜め
          る。
          画面は、乱れた様子を見せながら(ミチロウの手で)少し
          だけ開けられたドアの隙間から、入ってきてそのまま床
          に倒れ込みもつれ合う二人の人物を捉えズームアップさ
          れる。
          ズームアップされ鮮明になった人物は、ミヤマとクミ。
          ミヤマ、酔いの気配濃厚にクミの服を乱暴に剥ぎ取り始                
          める。
          喜んでそれに応じるクミ。
          ミヤマ、ふと何かを感じた様子で動作をやめ辺りを見回
          す。
          画面、(慌ててカメラを隠したので)乱れた様子を見せた
          あとミチロウとシバの足元を映す。
ミヤマの声「誰じゃ!」
          音が、ミヤマが近づいてくるのを教える。
          「ミチロウ!何やっとんのじゃ!」と怒鳴る声に更に乱
          れた様子を見せた画面は、いきなり怒りを露にしたミヤ
          マのアップが映ってきたのも束の間、(カメラが放り出
          されたので)不安定な角度でフィックスし、壁に貼って
          あったミチロウのビデオのポスターの断片を捉え、言い
          争うミチロウ、ミヤマ、シバの声を伝える。
          音は、更に加熱する口論の様子を伝えたあと、ガラスの
          割れる音、一瞬の静寂、クミの叫び声を最後に画面と共
          にフェードアウトする。

(つづく)  


  



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2007-06-29

シナリオ『電影マニアックス』11

69   或る街角
          自らの作品の描かれた壁の前で、斜に構え照れ臭そうに
          悪戯っぽい微笑みを浮かべたシバが画面に正対している。
シバ 「イェー!俺、シバ。いかれちまったミチロウからカメラ
     をブン取りこうしてまーす。イェー!」
               ×     ×
          フラッシュ。
          トキコと腕を組んで歩いていたミチロウが真剣に怒って
          「やめろって!」と両手で画面を塞ぐ。
               ×     ×
シバ 「ってなわけで、お前らには俺様の作品を鑑賞してもらお
     うと思う。目ン玉かっ穿じって良く見ろよ!」    
          シバ、画面に向かってスプレーを吹きかける。
          真っ赤に染まる画面。
 
70   以下、ナレーション部分は内容に合わせて紙芝居のような可愛らしいクレ
 イアニメーションが展開する
シバのナレーション「×月×日 仕事帰りのトキコと待ち合わせ。
     ファーストフードの店に行く。俺が今まで撮ったビデオ
     の感想。トキコ、堰を切ったように喋る、喋る、喋る。
     楽しそうだ。だから、俺も、楽しい」
               ×     ×
          或る街角のシバが画面に向かって語りかける。
シバ 「ちょっとな、ミチロウの日記を盗み見ました。今時、日
     記!だからミチロウ無理すんなって。お前さぁ、記録好
     きなんだから」
               ×     ×
シバのナレーション「×月×日 トキコが休みだったので遊園地
     に行く。観覧車の中でキスをする。一回だけのつもりが
     気が付くと互いに貪り合っていた」
               ×     ×
          或るバーで酒を飲んでいたアヤ、「死ね」と言ってグラ
          スの飲み物を画面に向かってぶちまける。
               ×     ×
          或る街角のシバがおどけて身をすくめる。
シバ 「ま、こういう人は放っておいて‥‥どうよ?俺様の粘土
     アニメ。イケてねぇ?」
               ×     ×
          或るテレビ局の廊下で立ってスタッフと打ち合わせをし
          ているノムラが。──
ノムラ「ミチロウ?もう終わったアイツ、駄目」
シバの声「冷たいっすねぇ」
ノムラ「あの、他に用あるの?」
シバの声「いえ、別に‥‥」
ノムラ「見て分かんない?忙しいんだ」
          画面に背を向け去るノムラ。
シバの声「スンマセン。あの、ノムラさん、雑誌の特集の件‥‥」
               ×     ×
          芝居の稽古の合間のナツミ。
ナツミ「すっかりヒモだってね、あの子の。アタシ、牙の無い奴
     には興味ない」   
               ×     ×   
シバのナレーション「×月×日 映画を見る。他人が撮った絵を
     見るのは久しぶりだ。トキコは真剣に観てたが俺にはち
     ょっと退屈。暇なんで脚に触ったら怒られた」
               ×     ×
          キリュウの遺影にリンの音。
               ×     ×
          ある街角のシバ。
シバ 「何だかよぉ、冴えねぇよぉ、(元気なく)イェー!」
          シバ、つばを吐き「ツマンネェ」と言い残し、画面から
          フレームアウト。
          画面、フェードアウト。

71   暗い部屋の中
          画面に対して背を向けている女(トキコ)。
トキコ「(音声を加工されている)えー、別に何でもかんでも嫌だ
     っていうわけじゃなくって‥‥」
          カットが変わり、今度は正面から捉えたものになるが、
          モザイク加工を施されたトキコの顔は分からない。
          テロップ。──『プライバシー保護のため映像と音声の
          処理をしています』。
トキコ「直前に触った人がね、その人の気持ちが伝染するような
     感じってしない?」
            ×          ×
          フラッシュ。
          夜の電車内、つり革にぶら下がりベロベロに酔っ払った
          中年男が、社会や仕事の愚痴に答えを求め大声で誰何す
          る。
          画面、唾が飛ぶ中年男がぶら下がっている吊り革にズー
          ムアップ。
            ×          ×
      トキコ「何か‥‥気持ち悪いでしょ?そういうのって」

72   画面に正対したミチロウのアップ
      ミチロウ「(カメラ目線で)異常な潔癖性」

73   暗い部屋の中
          音声加工を施され顔にモザイクの掛ったトキコ。
      トキコ「人間って清潔な生き物よ。清く正しく生きてるのよ」
          画面、落ち着きなく動く白い手袋のアップになる。
          画面一杯に無数の文字テロップが走る。──『矛盾』。
          再びカットが変わりバストショットで画面に向かってい
          るモザイクの掛かったトキコになる。
          モザイク、少しずつ薄くなっていく。
トキコ「ねぇ‥‥ミチロウ君」
ミチロウの声「何?」
トキコ「約束」
ミチロウの声「ああ‥‥顔は分からないようにするから」
トキコ「それだけじゃなくって」
ミチロウの声「これっきりだよ。記録なんて下らない」
          完全にモザイクがとれハッキリと分かるトキコの顔。
トキコ「でしょ。大事なのは‥‥」
ミチロウの声「記憶。思い出だろ?」 
トキコ「信じるからね」
ミチロウの声「信じろ」
      
74   画面に正対したミチロウのアップ
ミチロウ「(カメラ目線で)いつも正しいことしか言わないトキ
     コ」
              
75   仲良さそうに写ったミチロウとトキコの写真が。──
          真ん中から破かれて女物らしき家具で埋まっている安っ
          ぽいアパートの一室にいるミチロウが顔を見せる。
ミチロウ「もう限界!俺をこんなところに閉じ込めやがって。退
     屈にカビが生えそうだ!クソッ!」
          壁を叩くミチロウ。
ミチロウ「毎日毎日セックスと飯を食べるだけ。テレビ見るのと
     買い物しか興味ないのかよ!」
          苛々してそこら中の物に当たり散らすミチロウ。
               ×     ×
          フラッシュ。
          真っ暗な画面にテロップ。──『矛盾を抱えて生きてい
          るのがニンゲンだ』
               ×     ×
ミチロウ「記録するのが現実逃避だぁ!?ざっけんな!てめえの
     潔癖性は異常なんだよ!気持ち悪りぃんだよ!」
          段々興奮してきて激しく暴れ出すミチロウ。
               ×     ×
          暴れに暴れて荒れ果てた部屋の片隅にうずくまるミチロ
          ウ。
ミチロウ「‥‥腹減った」
          ミチロウ、財布を覗いてため息をつくと、それを壁に投
          げ付ける。

(つづく)  


  



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2007-06-28

シナリオ『電影マニアックス』10

62   或る海辺
          さざ波打ち寄せる波打ち際に波光煌めく。
トキコの声「あんなことあってミチロウ君もショックだったでし
     ょ」
ミチロウの声「いや、別に‥‥」
トキコの声「強がんなくていいよ」
ミチロウの声「別に強がっては‥‥」
トキコの声「安心して。私、ミチロウ君の味方だから」
ミチロウの声「安心‥‥えっ?味方?」
トキコの声「みんな、酷い。ミチロウ君の仲間の人たち。こう言
     っちゃ失礼かもしれないけど‥‥」
          「そうか?愉快な奴らだよ」と言うミチロウの声と共に
          画面は波からトキコの顔へパンされる。
トキコ「(首を横に振って)違う。みんな、自分のことしか考えて
          ない。彼が自殺したのは絶対ミチロウ君のせいじゃない
          のに」
               ×     ×
          フラッシュ。──或る葬儀場。
          坊主の読経も無視して棺にすがり大声で泣いているキリ
          ュウの父の様子を隠し撮りした画面。
トキコの声「身体中に古い無数の傷跡があったって。ウチの先生
     が言ってた。間違いなく幼児期に虐待されてただろうっ
     て、彼。手首にカミソリ跡も‥‥」
          親族に両脇を支えられたキリュウの父が画面の前を横切
          る。
               ×     ×
          フラッシュ。──或る葬儀場・受付。
          受付の者から香典を奪い中の金を数えるキリュウの父。
トキコの声「全然悪くない。ミチロウ君は」
          卑屈になり人相の悪い男に金を渡しているキリュウの父。
               ×     ×
トキコ「ね、だから元気出して」
    
63   ぐいっと。──
          ミチロウ、画面に迫ってきて(カメラ目線で)。──
ミチロウ「何でキリュウが俺の入院している病院の屋上から飛降
     りて死んだのか?その理由。俺を慰めてくれるのはあり
     がたいが、トキコの話には大事な部分が抜けている。そ
     れにさ‥‥」

64   或る海辺
          画面から視線を逸らして遠くを見るトキコ。
ミチロウの声「(呟き)俺、そんなことあんまり気にしてないんだ
     けどなぁ」
          間。
トキコ「‥‥現実逃避しちゃ駄目だよ」          
ミチロウの声「(苦笑し)参ったな」
          トキコ、鞄から厳重に密閉された古ぼけたプラスティッ
          クの容器を出して画面の前に掲げて見せる。
ミチロウの声「何、これ?」
トキコ「タイムカプセル」
ミチロウの声「へっ?」

65   真っ白な部屋の中
          バストサイズのミチロウが画面に正対して喋っているの
          だが、聞こえるのはトキコの声。
ミチロウ(トキコの声)「この中にはね、凄くドキドキして作った
     っていう思い出がぎっしり詰まってるの。大事なのは記
     憶。記録じゃないのよ」
          ミチロウ、中指を立てる。

66   或る海辺
          トキコ、遠くを見て喋っているのだが、聞こえるのは声
          色を真似て茶化して喋るミチロウの声。
トキコ(ミチロウの声)「記録って残酷よ。でも記憶ならいつか風
     化する。時間が、どうしようもないと思ったことを優し
     く癒してくれる」

67   真ん中から二分割された画面の。──
          右側には或る海辺にいるトキコの横顔があり、左側には
          真っ白な部屋の中にいるミチロウの横顔がある。
          二人はまるで面と向かって話をしているみたいである。
トキコ「ご免。でも‥‥今日もね、これ持ってきたのはミチロウ
     君にそれを知ってもらいたかったからなの」
          つまらなそうにあくびをするミチロウ。
トキコ「ミチロウ君、私が嫌い?」
ミチロウ「何かさぁ、どうでもいいんだよね」
トキコ「じゃあ、お願い。一緒にいる時はカメラやめて。二人の
     時間を大切にしようよ」
ミチロウ「俺、これで食ってんだぜ?判ってる?」
トキコ「(微笑んで)ありがとう」

68   手持ちで自分にカメラを向けて歩くミチロウのアップ
ミチロウ「もしかしたら僕はトキコを愛してるかもしれないな。
     だから愛の為に喜んでカメラを捨ててみようかな。ちょ
     っと面白いかもしれない。君たちと会えるのもこれが最
     後かもしれません」
          にっこり微笑み空いている手を画面の隅に伸ばすミチロ
          ウ。
          (スイッチをオフにしたので)画面、消えて真っ暗になる。


(つづく)
  


  



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2007-06-27

シナリオ『電影マニアックス』9

59   (ビデオカメラのスイッチが入って) 真っ暗な画面に明かりが灯り。──
          スイッチを入れた直後の頭に包帯を巻かれたミチロウの
          アップ。(ミチロウ、カメラのレンズに映る自分の顔を
          見ている)
ミチロウ「あっちゃあ‥‥サイアク」
          (ミチロウがカメラを手にしたので)一瞬乱れた様子を見
          せた画面は次に白い天井、白いカーテン、白い壁などを
          映す。
ミチロウの声「っと、見ての通りここは病室です」
          枕元の名札にズームアップされる画面。
          ベッド脇の小机にパンされる。──置き手紙がある。
          伸びてきた手が紙片を取り画面前に持ってくる。
          文面。──『バイトが終わったらまた来ます。それまで
          おとなしくしているよーに。 アヤ』
          「クソッ!」と、言って紙片を握り潰すミチロウの手。
ミチロウの声「腐るなぁ‥‥そんなに俺が悪いかよ」
          その時、不意に聞こえたドアの開く音に画面パンされる
          と、食事を乗せたワゴンを不器用に押し入って来る割烹
          着姿の女(トキコ)の尻が映る。
トキコ「おばあちゃん、待たせちゃってごめんなさいねぇ」
          トキコ、言って画面の方を見た表情が怪訝に曇り、慌て
          てドア外の名札を確認する。
トキコ「(顔を真っ赤にして)す、すみません。間違えた‥‥みた
     いです」
          トキコ、慌てて出て行こうとするが、ワゴンを思うよう
          に操れない。
          ワゴンから、床に落ちるコッペパン。
トキコ「あ」
          どうしていいか分からず固まってしまうトキコ。
          その時、突如、画面は落ちたコッペパンに勢い良く迫っ
          ていき、(ミチロウの手が)拾う様子を映す。
          コッペパン、画面端に一端は消え再び見えた時には大き
          く齧られ半分になっている。
          画面、コッペパンから唖然としているトキコへパンされ
          る。
ミチロウの声「大丈夫。3秒以内はセーフだから」
トキコ「えっ?」
ミチロウの声「これ、食っちゃっていい?ってもう食ってるけど」
トキコ「(笑い)変な人だ」
          「ちょうど腹減ってたんだ。こっちもいい?」と、言い
          ながらワゴンの牛乳に伸びた(ミチロウの)手を優しく叩
          くトキコ。
トキコ「調子に乗り過ぎ」
ミチロウの声「ケチ」
トキコ「(微笑み)この部屋空気悪いわね」
ミチロウの声「そうかな」
トキコ「そうよ」
          窓際に行くトキコ。
          トキコが窓を開けようとしたその時、窓外に。──
          『人』!?が降ってくる。
ミチロウの声「何?」
          トキコ、びっくりした顔で一瞬振り向き慌てて窓を開け
          下を見る。
          「嘘!?」と、小さく言ってからひと呼吸置いてから叫
          び声を上げるトキコ。

60   真っ暗な画面に文字が踊る
          ──。『人間って結構もろい。簡単に死ぬ』

61   同・霊安室
          寝台の上に傷跡も生々しい死んだキリュウが横たわって
          いる。
          「マジかよ」と、呟くミチロウの声をかき消すように激
          しい様子で、「どうして!どうしてよ!」と叫び涙で顔
          をグシャグシャにしたアヤが画面の中に飛び込んでくる。
          アヤの背後には呆然と佇むメメコ、ノムラ、シバなど仲
          間たちの姿があり、ドア口にはトキコもいる。
          画面は、ミチロウにすがりさめざめと無くアヤの様子を
          捉えると共に、その背後でゆっくりとキリュウの亡骸に
          歩み寄っていくメメコの姿も見せる。
          メメコ、キリュウに囁くように何か言ってるようだが声
          は聞こえない。
ミチロウの声「何?何か言ってる」
メメコ「‥‥たのよ」
ミチロウの声「えっ?何」
メメコ「(画面の方を見て)アンタが殺したのよ。アンタが!アン
     タたちが殺したよ!」
          メメコの一喝に一瞬静まり返る室内。
アヤ 「‥‥な、何言ってんのアンタ?」
          メメコ、一瞬アヤを睨みつけるような形相になると勢い
          そのままアヤに襲いかかって行く。
          画面は、うろたえた男たちが止めるのも聞かず罵り合い
          掴み合い激しい乱闘を繰り広げるメメコとアヤの様子を
          克明に捉える。
          ドアが開き中年の男女(キリュウの父・母)が姿を見せる
          が、メメコとアヤの争いはやまない。
          画面が二人にズームアップされた時、驚きに目を見開い
          ていたキリュウの母は踵を返しその場を辞す。
ノムラ「(キリュウの父に近づき)あの‥‥」
キリュウの父「(うつむき消え入るような声で)この子の父です」
ノムラ「えっ?はぁ‥‥ああ、はい、はい。(ドアの外を指差し)
     じゃぁ、お母さん?」
キリュウの父「はい。あの、これは‥‥」
ノムラ「いやぁ、ちょっと‥‥すいません。オイ、お前たち!や
     めろ!」
          ノムラ、二人を止めに入るのでフレームアウトし、画面
          は能面のように表情のないキリュウの父にさらにズーム
          アップされる。
          キリュウの父、口をモゴモゴさせたかと思ったらその直          
          後うっすら笑みを浮かべ大きく深呼吸する。
キリュウの父「(大きな声で)あのぉ、みなさん!」
          画面、クローズアップでキリュウの父の顔を捉えながら
          室内がざわめきつつも静まる様子を伝える。
キリュウの父「みなさん!香典持ってきましたか?香典。人が死
     んだ時に持って来るお金です。みなさん、この子の友達
     ですか?だったら香典を出す義務があります。そして、
     この子の父である私は香典を受け取る権利があります」
          キリュウの父が満面の笑みを浮かべたところで画面はス
          トップモーション。
          ひと間あって。──
ミチロウのナレーション「俺、脳みそがプリンになった。興奮
     した。最高だ、このオヤジ。面白れぇ!」

(つづく)  


  



不機嫌な天使

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著者:長濱 英高

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シナリオ『電影マニアックス』8


51   渋谷駅前・路上((夜)
          見物人に囲まれギターを抱え唄っているキリュウ。
          距離を置いて似たような集団があちこちにある。
ミチロウの声「闇夜に灯火の唄。誘われる虫、彼らの胸はあらか
     じめ奇形の空洞に仕組まれている。こらん、こらん。や
     しゃる、やしゃる。あん、変な音。病気じゃないの?い
     やいや敢えて空けてあるのだと彼らは言う。──」
          キリュウを囲む輪の中にいる或る女がじっとこちらを見
          ている。
          近寄って来る女の顔にズームアップ。
          好奇心丸出しのちょっと田舎臭い女(メメコ)。
メメコ「あのぉ‥‥もしかしてぇ、ミチロウさん、ですか?」

52   或るホテル・一室(夜)
          ガラス越しに見える湯気の立ち込めたバスルームで、照
          れ笑いを浮かべながらも身体を隠さずにシャワーを浴び
          るメメコ。
          音が無くなる。
          裸で笑うメメコが画面に向かってシャワーの湯を浴びせ
          る絵にオーバーラップして、早朝の渋谷センター街のゴ
          ミに群れるカラスの絵がぼんやり浮かび上がってくる。
ミチロウのナレーション「…悲しい唄は聴きませんように。不思
     議なポッケで小銭が増えますように。腹を抱えて転げ落
     ちますように。誰よりも眩しい肌を誇れますように‥‥
     毎日生まれるささやかな願いごと。叶うことの無いささ
     やかな願いごと」
          ベッドの上で頬を赤く染めたメメコの上半身が揺れる。
          潤んだ瞳で画面を見つめるメメコの絵にオーバーラップ
          するゴミ箱を漁るホームレスを捉えた画面。
ミチロウのナレーション「いつか命が無くなる日まで繰り返され
     る欲望と刺激、狂喜と失意の永久連鎖。心臓が退屈して
     眠らないように神様が仕組んだ優しい罠」
          行為を終えて充実した様子でベッドに横たわるメメコ。
          スローモーションで、楽しそうに一生懸命画面に向かっ
          て(ミチロウに向かって)話し掛けているメメコ。──声
          は聞こえない。
ミチロウのナレーション「‥‥っと、この女誰だっけ?」

53   渋谷駅前(早朝)
          笑顔で手を振り駅舎に消えていくメメコ。
ミチロウのナレーション「俺には何の意味もない名前‥‥その場
     限りの記号でしかない名前‥‥。でも、まさか‥‥」

54   画面、瞬時に真っ暗になり。──
          テロップ。『悪かった。そんな顔されるとは思わなかっ
          たんだ』

55   キリュウの部屋・内
          困ったような、怒ったような、泣きそうな、複雑な表情
          を浮かべたキリュウのアップ。
キリュウ「‥‥別に怒ってなんかないよ」
          無理矢理笑顔を作り窓外に視線を向けるキリュウ。
ミチロウの声「ホントに?」          
キリュウ「だって言ってなかったし、ミチロウ、お前無理矢理や
     ったわけじゃないんだろう?」
ミチロウの声「まぁ‥‥な」
キリュウ「仕方ないよ‥‥」
ミチロウの声「キリュウ!」
          キリュウ、振り向かずに。──
キリュウ「あのさぁ‥‥(震える声で)あのコを写したビデオもや
     っぱり使うのか‥‥な?」
ミチロウの声「当たり前だよ!」

56   ケンイチからのビデオレター(ミズシマ家・表)
          画面上で目隠しをされたケンイチが几帳面に気をつけを
          して(画面に向かって)正対している。
ケンイチ「久しぶり、ミチロウ。お前、住所が分からなかったの
     で、制作会社の方にこれを送ります」
          画面には、ケンイチが喋った直後、手書きのテロップ、
          『←死ネ!キチガイ!』の文字が踊る。
ケンイチ「お前のビデオ‥‥作品、観ました。今日はその感想と
     父さんたちの近況報告をしたいと思います」
          画面、右隅に無表情で右手中指を立てたミチロウが写っ
          た小窓のような別の画面がワイプインしてくる。
ケンイチ「あのさー、父さんあんまり感心しない。やっぱね、写
     す対象には触れちゃいかんのよ。あくまでも記録であっ
     てさ、それ以上やっちゃうとな、ヤラセっていうか、演
     出が入っちゃうだろ?どうなのかなぁ、そういうのっ
     て?」
          こうしてケンイチが喋っている間にも手書きのテロップ
          『分かったふりするな』『ウゼェンだよ!』『負け犬』な
          どの文字が踊り、それは文字だけにとどまらず、背景な
          どが極彩色で塗りつぶされ、顔に落書きをされたりして
          画面全体がビデオコラージュの様相を呈してくる。
ケンイチ「あまり辛口の批評ばかりなので嫌になっちゃうかもし
     れないけどこれもお前を思ってのことです。しっかりと
     心に留めておいてください。えーと、近況報告に移りた
     いと思います。えー、近頃母さんは‥‥」
          ケンイチが喋っているのを遮るように小窓だったミチロ
          ウの画面が大きくなって画面いっぱいになる。
ミチロウ「Fuck you! Kick your ass!!」
          
57   街を疾走する主観映像にイメージの点描映像がオーバーラップしてきてスピーディーに展開する
ミチロウのナレーション「俺は今有頂天なんだ」
          シバ、キリスト像に落書きして画面に向かってアッカン
          ベー。
          信号待ちの車の中から煙草の吸い殻がぶちまけられる。
          酒に酔って笑うキリュウ。
          アヤ、アイドルのようにキメポーズ。
          初老のサラリーマンを囲む人相の悪い高校生たち。見て
          見ぬ振りをする人々。
          夜明けの酒場前でタバコに火をつけるナツミが美しい。
          アヤといちゃつくミチロウ。(横からの固定カメラ)
          ギターを弾くキリュウ。
ミチロウのナレーション「醜いこと、美しいこと、笑えること、
     記録‥‥。俺は撮り続ける。それが俺の宿命。悲しみな
     んてとっくに汚れてる。だから‥‥」
          酔って看板を蹴飛ばすサラリーマンの一団。
          『愛』『欲望』『無』『友情』などの文字だけが書かれた
          真っ白な顔面マスクをつけた数十人の人々が、それぞれ
          に携帯電話を掛けながら渋谷センター街を練り歩く。
          ギターケースに堪った小銭を笑顔で画面に向かって差し
          出すキリュウ。
ミチロウのナレーション「怒れ!怒れよ!キリュウ!お前の女と
     寝たのはこれで二度目だ。酷いことをしてんだぜ、俺。
     曖昧に微笑むのはやめろ!」
          小洒落た居酒場で、様々な酔客の人間模様の中に、膝の
          上に若い女を乗せいい気分で酒を煽るノムラが、「今日
          を楽しめ!考えるな!感じるんだ!」と、画面に向かっ
          て豪快に笑う。
ミチロウのナレーション「有頂天!素晴らしい!有頂天で何が悪
     い!?」

58   小洒落た居酒屋・店内(夜)
          ノムラの背後に見えるスーツ姿で頭から水を滴らせた冴
          えない男(ドバシ)が、一直線にこちらに向かって近づい
          てくるや否や、「な、ななな、何が可笑しいんだよぉ!
          君はぁ!」
          と叫びに似た声を上げ手を伸ばし画面を塞ぐ。
          画面は、乱れたまま「何だぁ!?」と怒声を伝えたあと、
          (ミチロウがその場を離れたので)胸元を掴み合うノムラ
          とドバシの様子を映す。
ドバシ「き、君たちはぁ!ぼ、ぼ、ぼ、僕がぁ恋に破れたのがそ
     んなに楽しいのかぁ!?」
ミチロウの声「はぁ?お前どこの国のアニモゥ(アニマル)?」
ノムラ「おいおい、コイツの飼い主誰だぁ!?繋いどけよ!」
ドバシ「せ、せ、青春を謳歌する権利は誰にだってあるはずです
     ぅ、それをこそこそこそこそこそこそ!」
ノムラ「(ドバシの頬を叩き)楽しそうでいいなぁ」
ドバシ「(画面の方を見て)だっ、だっ、だだ、だから、ヤメろぉ!
     ば、ば、馬鹿にするなぁ!」    
          ドバシ、思いも寄らない強い力でノムラを振りほどき手
          元にあった酒瓶を掴み、あれよという間に画面に向かっ
          て振り下ろす。
          (酒瓶でミチロウの頭を殴った)鈍い音、ミチロウの小さ
          な叫び声、女の悲鳴、騒然とした様子。
          (ミチロウが倒れたので)画面は乱れた様子を見せたあと、
          右往左往する人々の足を映す。──フェードアウト。

(つづく)  


    



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2007-06-26

シナリオ『電影マニアックス』7

41   乱れた手持ちカメラの映像が整った次の瞬間。──
          画面は、フルフェイスヘルメット着用の男(銀行強盗A)
          のアップになる。
          画面からは、二人の銀行強盗に襲撃された直後の混乱し
          た或る銀行の店内の様子が伝わってくる。
銀行強盗A「(画面を見て)なんだテメエ!」
若い男の声「(間髪を入れずに)詩人だ!文句あるか!」
          画面は、銀行強盗Aが一瞬怯むもすぐに銃を振り下ろす
          (撮影者の若い男を殴る)ので、一瞬ぶれるが、その行動
          を逃すまいと更に肉迫する。
若い男の声「せっかく銃があるのに、殴る。(ため息)つまらん、
     残念ですが芸術とは無縁の人物のようです」
          画面、フェードアウト。

42   あるバー・店内(夜)
          画面、壁に埋め込まれた無数のモニターに流れるニュー
          ス番組の映像を写している。
          モニターには、銀行強盗ABによって占拠され混乱しつ
          つも無気味な静寂を満たした行内の様子を手持ちカメラ
          で映した映像が流れている。
          モニター画面を捉えた画面のピントがぼけて、そこに複
          数のビールジョッキがフレームインしてきて杯を併せ
          「乾杯!」と男女入り乱れた賑やかな声が聞こえる。
          画面、フェードアウト。

43   ある銀行・店内
          画面は、 (手持ちカメラの映像で)泣きそうな女子行員
          から次々と札束を受け取り鞄に詰めるのに夢中な銀行強
          盗Bの後姿に忍び寄っていくと、端から伸びた手が目出 
          し帽を剥ぐ様子を映す。
          驚いて振り向く銀行強盗Bの素顔のアップ。
銀行強盗B「殺すぞ!」
若い男の声「おっ!これはいい!実にいい!切羽詰まった男の悲
     哀!」
          声の主の若い男は銀行強盗Bに銃口を突き付けられるも
          関せず「苦い思いの数だけ刻まれた深い皺!こんな顔な
          かなか出来ない!」などと続ける。    
          銀行強盗B、困惑と切迫感を煮詰めたような表情で引き
          金を弾くが銃は不発。
          銀行強盗B、焦って何度も引き金を弾くがウンともスン
          ともいわない銃にいらだちを募らせる。
若い男の声「ヤベエ、マジ、いい!あんた!」
          銀行強盗B、声に反応して銃を振りかぶるが(撮影者の
          若い男に避けられたので)空振りしてよろめく。

44   情報バラエティ番組
          画面には、ニュースキャスター、女子アナウンサー、コ
          メンテーター(雑誌記者・ノムラ)、リポーターの女が並
          んでいる。
キャスター「結局この映像が事件の早期解決に大きく貢献したわ
     けですが、なんとも勇気があるというか非常識というか
     ‥‥(苦笑)とにかく今日本で一番無謀なアーティスト、
     ミズシマミチロウさんをスタジオにお招きしました!ど
     うぞ!」
          カメラが切り替わり拍手と共に登場するミチロウ。
          画面には『映像詩人・ミズシマミチロウさん(20)』の 
          テロップ。
     
45   ある銀行・前
          画面、膨らんだ鞄を抱え慌てて車に乗り込む銀行強盗A
          Bを追う。
          パトカーのサイレンが聞こえてくる。
銀行強盗B「憶えてろよ!」
          車、急発進する。
ミチロウの声「ああ、逃げてゆく、逃げてゆく。あるはずもない
     楽園を信じて無職の男が逃げてゆく」
          遠ざかる車。
ミチロウの声「過去に捨てられ、明日に背き、今日に裏切られた
     男二人が今、魂を焦して逃げてゆく‥‥。美しくはない
     けどちょっと泣かせるなぁ」

46   情報バラエティ番組
リポーターの女「怖くなかったですかぁ」
ミチロウ「別に」
ノムラ「怖いとか怖くないとかそういう次元の問題じゃないです
     ね、これは。芸術家としてね、彼はこの失意と迷走に支
     配され切った二十一世紀に新しい若者像、いや人間像を
     体現したと言えるわけで‥‥」

47   あるバー・店内(夜)
          ノムラ、画面に近寄ってきてアップになり、笑い「無謀
          なだけだっつーの!」と言って離れると、そのバックに
          壁一面のモニターを背景にした数人の男女の賑やかな様
          子が見えてくる。
ミチロウの声「心ないコメントありがとうございます」
ノムラ「小難しいこと言っときゃ視聴者は喜ぶんだよ」
          ノムラがニヤけたところでストップモーションして、
          瞬時に画面は、絵画的コラージュをされ片隅にテロップ
          が出てくる。
          テロップ。──『ノムラ 雑誌編集者・タレント・イベ
          ントプロデューサー 色々な肩書きを持っている。巧み
          な弁舌と要領の良さで、金になりそうなことに絡んでは
          美味しいとこだけ頂いていく文化ゴロ。趣味は貯金』
          画面変わって今時風のジャージに身を包んだ男・シバの
          しらけた横顔。      
シバ 「自分じゃ何も生み出さないくせに世の中舐めまくってま
     すねえ」
          ノムラの時同様画面はストップモーション、絵画的コラ
          ージュがされる。
          テロップ。──『シバ 自称ペイントアーティストのフ
          リーター ノムラのことが大嫌いだ。悪態をついてる
          けど、いつかノムラの雑誌で路上アーティストの特集を
          組んでやると言う言葉にすがり自分はビッグになると信
          じているおめでたいヤツ』
          煙草を吸っているナツミ。
ナツミ「ホント、この人のこういうところ大っ嫌い」
          ナツミが煙を吐き出したところで画面はストップ、絵画
          的コラージュになる。
          テロップ。──『ナツミ アングラ劇団の劇団員・ノム
          ラの愛人 斜に構えて見せてノムラの話によればベッド
          の上では今時驚くほどしおらしいらしい』

48   情報バラエティ番組
          画面は、ミチロウのアップになっている。
ミチロウ「俺には芸術の神様がついてますから」
          同時にセリフがそのままスーパーインポーズされる。

49   あるバー・店内(夜)
          呆気にとられていたアヤが振り向く。
アヤ 「普通言う?こういうこと」
ミチロウの声「駄目?」
アヤ 「駄目じゃない!」
          アヤ、満面の笑みを浮かべそのまま勢いで(ミチロウに)
          抱きつこうとしたところで画面はストップモーション、
          絵画的コラージュにされる。             
          テロップ。──『アヤ 美容師見習い 芸術系大好きの
          ミーハー。今は俺のファンで一応〈彼女〉ということに
          なっている』
          画面変わって、ストップモーションでコラージュされた
          うつむき加減のキリュウになる。
          テロップ。──『キリュウ 路上ミュージシャン この
          仲間の中でおそらく一番純粋なヤツ。そして、不眠症の
          アヤの元彼』
          画面、絵画的コラージュ、ストップモーションが解かれ
          動き出す(グラスの酒をあおる)キリュウを見せる。
キリュウ「ミチロウの成功を祝って一曲」
          キリュウ、ギターを取り出すと明るく陽気な歌を唄い始
          める。
キリュウ「今日はあいつにいいことがあった。つらく苦しい日々
          の果てに。今日はあいつにいいことがあった。素直に喜
          びを分かち合おう。ジョッキを倒せ、つまみはまだか、
          酔いつぶれてsitting bad all」
          キリュウの歌は続く。
          画面、ギターをかき鳴らし唄いながらみんなのまわりを
          歩くキリュウに盛り上がる様子を捉える。

50   『ミヤマ企画』・表 〜 室内
          『ミヤマ企画』のプレートが掛けられたマンションのド
          アが開けられる。
          電話番の女(クミ)が、奥を指差しジェスチャーで『電話
          中』。
          主観で進んでいくに従い、荒っぽく話す男の声が明瞭に
          なってきて、奥の部屋で、褌一丁の逞しい強面の中年男
          (ミヤマ)が片腕で腕立て伏せをしながら電話をしている
          姿が見えてくる。
ミヤマ「急いで仕上げてくれって、1から5までが500ずつ。そ
     う、500や。6から8は1000やで‥‥は?なんやて、そ
     んな待てんわぁ。寝惚けたこと言わんとって‥‥今月中、
     できれば今週中や。ホンマ、頼んまっせぇ」
ミチロウの声「こんにちは」
          受話器を置き画面の方を見るミヤマ。
ミヤマ「おう、ミチロウ。大変や。今までのビデオ、全部再版す
     ることになったわ。ネットでなぁ、えらい注文が殺到し
     とんのや」
ミチロウの声「凄いな。驚きです」
ミヤマ「なんや、他人事みたいに言いなさんな」
ミチロウの声「今まで全然売れなかったし」
ミヤマ「いつまでそんなこと言うとんのや、お前の時代が来たん
     じゃ!で、どうや新作は?」
ミチロウの声「うーん」
ミヤマ「なんや?歯切れ悪いなぁ」
ミチロウの声「勝負どころだから次はスゲェのかまさないと」
          ミヤマ、少し不機嫌そうになるが気を取り直し。──
ミヤマ「ま、戦略ってヤツか」
ミチロウの声「生意気っすかねぇ」
ミヤマ「ええって、ええって。気にしなさんな。でも、早ように
     仕上げたって。ファンのみんなも待っとるさかいにな」
          言いながら画面の両脇に手を伸ばしミチロウの肩を揉む
          (揉んでいる様子の)ミヤマ。
ミチロウの声「痛っ!ミヤマさん、痛いですって」
ミヤマ「ええわ、ええわ!」
          豪快に笑い飛ばすミヤマ。


(つづく)
  


    



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2007-06-25

シナリオ『電影マニアックス』6


30   ミズシマ家・リビング(夜)
          通知表を手にしたタエコの前にいるミチロウ。
          二人から少し離れたところで寝転がってテレビを見てい
          るケンイチ。
          タエコ、ケンイチをこなしてから。──
タエコ「駄目よ!お母さんは許しませんからね」
          ケンイチ、タエコの様子を窺いながら隙を盗んで画面に
          向かってリモコン操作をする。
          画面は、(隠しカメラをケンイチがリモコン操作したの
          で)ミチロウとタエコにズームアップされる。
タエコ「高校くらい行っとかないでどうするのよ、将来。遊びた
     いなら夏休みにでも行けばいいじゃない」
ミチロウ「遊びに行きたいんじゃない。東京で暮らしたいんだ」
タエコ「出来っこないじゃない!」
ミチロウ「ウッセーな!出来るったら出来んだよ!」
タエコ「何!?その口の利き方は!」
ミチロウ「もう嫌なんだよ!こんな町!こんな退屈で何もない町
     なんて気が狂いそうになんだよ!」
          手元にあったテレビのリモコンを食器棚に投げ付けるミ
          チロウ。
          食器棚のガラスが砕け散る。

31   ある郊外型の巨大スーパーマーケット・前
          (隠し撮りされた映像で)入り口付近で思案しているタエ
          コ。
          タエコ、何かを吹っ切るかのように店の中に入って行く。

32   同・店内
          (隠し撮りされた映像で)メモを片手に買い物をするタエ
          コ。
            ×          ×
          レジに並ぶタエコ。
            ×          ×
          スーパーの袋を下げて足早に階段を下りていたタエコ、
          急に立ち止まる。
          タエコの視線の先には、驚きを隠せない様子でタエコか
          ら目を離せない恰幅のいい中年男(サカキ)。
          しばし見つめ合う二人。
ケンイチのナレーション「ミチロウは突然東京に行きたいなんて
     言い出すし、最近は訳の分からないことばかり。その最
     たるものが今日の出来事」
          会釈をして目を伏せるようにサカキの前から去ろうとす
          るタエコ。
          サカキ、そのタエコを呼び止め慌てた様子で名刺の裏に
          メモを書き渡す。
          視線を合わさずに名刺を受け取ると足早に去るタエコ。
ケンイチのナレーション「クリハラさんの用事でどうしてもサカ 
     キヤに行かなければならなかった。一番会いたくないサ
     カキに会ってしまった。まさか会うまいと思った私が甘
     かった」
          画面、タエコの後姿を見送るサカキにズームアップする。

33   表紙に『多恵子』と書かれた日記が開かれる
          開かれたページにはあの破れた写真と携帯電話の番号が
          書かれたサカキの名刺が挟んである。
ケンイチのナレーション「だけど、サカキは遊び人だった昔とは
     違ってずいぶんと落ち着いた様子。互いに歳をとったの
     だなぁと、動揺よりも郷愁の感」
          画面の隅から伸びてきたケンイチの指がその写真を退か
          すと,そこにはケンイチのナレーションと同じ文句が書
          かれている。
ケンイチの声「捨ててなかった‥‥」        

34   ある居酒屋・店内(夜)
          (古い傷んだ8ミリフィルムの映像で)赤ら顔で笑う二十
          代の若者たち。
          画面は、その中の一人に近寄っていく。
声  「ミズシマ、ミズシマ、こっち向けよ」
          呼ばれて画面の方を向いたのは長髪の若きケンイチ。
ケンイチ「もう‥‥お前もやめろよな。いい加減さぁ」
声  「何を?」
ケンイチ「(画面に向かって指差し)こういうこと」
声  「ンだよ。お前こそ子持ち女と結婚なんて決めやがって」
ケンイチ「バーカ。最新の流行だよぉ」
声  「やめとけって」
ケンイチ「お前こそ、いつまでも夢見てんじゃねぇよ」
声  「ンだよ。つれねぇなぁ」
ケンイチ「とにかく、俺はもう自主映画なんかやめたの。幸せな
     家庭を作んの」
若者A「ミズシマ、予定日はいつだ?」
ケンイチ「えっ?」
          若者B、若者Aを突つき「バカ、それは‥‥」と、戒め
          る素振りを見せる。
ケンイチ「いいって‥‥流れちゃったのはしようがないんだか
     ら」
若者A「ご免‥‥俺、出来ちゃったから慌てて結婚するんだって
     思い込んで‥‥」
ケンイチ「いいって、いいって‥‥でもな、俺は既にパパなんだ
     ぜ。ミチロウっていう素晴らしい子がいるんだ。それで
     充分だよ」
          「よーし!」と言う声と共に画面端から伸びてきた手が
          ビールのジョッキを掴み「乾杯しよう!乾杯だ」とみん
          なを促す。
          盛り上がる一同。
                 
35   閉じられる日記
      ケンイチの声「私は‥‥私は、家族を大切にしているだけである」

36   画面一杯に広がる水面
          太陽光が反射してゆらゆらと揺れている。
          石が投げ込まれ波紋を広げる。
ミチロウのナレーション「川はただ流れている。水の粒子の一つ
     一つは結構複雑で個性的なのかもしれないが、実際のと
     ころは分からない。上から見ても、ただ退屈に流されて
     いる無個性な集団でしかない。どんなに輝いた一粒だろ
          うと水の中にある限りは名前を呼ばれることもない」
          「ミズシマミチロウ君かい?」と、聞こえた声に画面は
          水面からパンされる。
          そこにいたのは笑顔を浮かべたスーツ姿のサカキ。
ミチロウの声「‥‥はい‥‥そう、です‥‥けど?」
サカキ「何してるんだい?」
ミチロウの声「別に‥‥詩を詠ってただけです」
サカキ「ビデオで?」
ミチロウの声「はい」
サカキ「へぇ‥‥変わってるねぇ。でも‥‥面白いねぇ」
ミチロウの声「あの‥‥僕に何か?」
サカキ「いや‥‥特にこれといった理由はないんだけどね。僕は
     面白そうなものには何でも興味を示すんだ」
ミチロウの声「‥‥」
サカキ「ご免。邪魔しちゃったな」
ミチロウの声「別に‥‥」
サカキ「いやぁー、本当にご免。邪魔者は退散するよ」
          言って右手を差し出すサカキ。
ミチロウの声「何ですか?」
サカキ「握手。握手させてくれ」
          画面端からおずおずと右手を差し出すミチロウ。
          力強くその手を握るサカキ。
サカキ「ありがとう‥‥じゃっ」
          踵を返し爽やかに去るサカキ。
          段々小さくなっていくサカキの後姿。
ミチロウのナレーション「会った瞬間に分かった。いつかこんな
     日が来ることは分かってたけど、いざそうなってみると
     どんな顔をしていいのか‥‥よく分かんねぇ」
            ×          ×
          (隠し撮りされた映像で)ビデオカメラを構えたミチロウ
          がサカキを見送っている。
ケンイチの声「ミチロウ‥‥」

37   ミズシマ家・表 〜 リビング(夜)
          玄関を捉えた映像に『 1997年3月×日 』のテロップ。
ケンイチの声「ただいま」
          返事はない。
          画面は、そのまま玄関、廊下を通ってリビングへといき、
          頭を抱えて焦燥した様子のタエコと、テレビのバラエテ
          ィ番組を見ているミチロウの姿を映し出す。
ケンイチの声「ただいま」
          二人とも返事をしない。
            ×          ×
          画面一杯にミチロウの受験票。
          受験票が画面から外れると、中学生でごった返す試験結
          果発表の場である。
          画面は、人波を掻き分けて掲示板の前まで進み番号を追
          う。
ケンイチの声「ミチロウの番号は‥‥ありません」
            ×          ×
          タエコ、画面の方を見ないで言う。
タエコ「カメラ‥‥やめてよ。こんな時によくそんな下らないこ
     と!」
ケンイチの声「下らなくない。俺は記録する。重大な事件を曖昧
     な記憶に出来るか」    
          タエコ、怒りに引きつって立ち上がり画面に向かって来
          るとケンイチから力ずくでカメラを奪おうとする。               
ケンイチの声「離せよ」
タエコ「離さない。こんなもの‥‥こんなもの‥‥」
          画面は、ぶれながらもその一部始終を断片的に捉える。
          時折写される唇を噛み締めたタエコの目には涙がにじん
          でいる。
ミチロウ「‥‥(静かな調子で)やめろよ」
タエコ「ミチロウ‥‥」
          画面の乱れは治まるが、構図は不安定にソファーの一部
          などを写している。
ミチロウ「いいんだよ。好きなだけ撮ればいい」
          画面は、不安定な構図から(ケンイチがカメラを構え直
          したので)一瞬乱れた様子を見せるが、次には穏やかな
          表情でこちらを見ているミチロウを映し出す。 
ミチロウ「‥‥構わないさ」
          柔らかな表情のミチロウは、ゆったりとした動作で立ち
          上がると部屋をあとにする。
          画面は、後姿を追い、階下から自室へ静かに姿を消すミ
          チロウを見せる。

38   真っ暗な画面に。──
          テロップ。『受かるはずないって。何も書かなかったん
          だから』

39   通学路
          男子生徒の一団、画面に近付いてきてふざけてみせる。
男子A「イェーイ!やっと卒業だぁー」
男子B「どうよ、どうよ(髪形が)キマッてる?」
男子C「ミチロウ、私服じゃん」
ミチロウの声「ああ‥‥記録してからね、着替えてくる」
          画面は、男子生徒たちをやり過ごしユミコのいる女子生
          徒たちの一団を捉える。             
          ユミコ、気付き一瞬怪訝な表情になるもすぐに笑みを浮                  
          かべ画面に向かってピースサインを送る。──ここで、
          スローモーション。
          画面は、すれ違いざまにパンしてユミコの後姿を見送る。
          スローモーションが解かれ、画面は、再びパンして人通
          りも途絶えた通りを進んで行く。

40   ミズシマ家・ミチロウの部屋
          きちんと片付けられた室内には誰もいない。
          画面は、ゆっくりと部屋全体を写し、最後に机のところ
          で止まり、上に乗った一枚の紙片にズームアップされる。
          紙片には。──『さよなら、俺』と、書かれている。
ケンイチの声「どうやら息子に捨てられたらしい」
          画面の中にケンイチの手が伸びてきて窓を開け放つ。
          窓外に広がる静かな早朝の町並み。
ケンイチの声「見捨てられた町」
          画面は中に戻り再びゆっくり部屋を見せる。
ケンイチの声「見捨てられた部屋」
          部屋の隅に近づく。
          姿見がある。
          姿見に映るカメラを構えたケンイチ。──生気のないく
          たびれた中年男の姿。
ケンイチの声「そして‥‥見捨てられた父親」
          画面はゆっくりとフェードアウトする。

(つづく)  


    



不機嫌な天使

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2007-06-24

シナリオ『電影マニアックス』5


22   フェードインしてくると。──
          ある神社の境内、(何かの物陰から映しているような映
          像で) 遠くの方に佇む髪を金髪に染めた少年の姿が見え
          る。
          剣道具を背負った少女が来る。
          テロップ。──『 1996 初夏 ミチロウとユミコ 』。
          顔を真っ赤にして真剣な表情でユミコに何かを喋ってい
          るミチロウ。
          声は聞き取れない。
          ユミコ、うつむき黙って聞いていたのが、ふと面を上げ
          ミチロウを見つめると首を横に振る。
          ミチロウ、途端に落胆した様子。
          一言何かを言うとミチロウに背を向けその場を去るユミ
          コ。
          呆然とするばかりだったが急に何かを思い出したように
          辺りを見回すミチロウ。
ミチロウ「(何かを見つけて)!」
          ミチロウ、怒りの気配で画面に近寄って来る。
ミチロウ「やめろ!」
          ──と言って手を伸ばしてきたので、画面は逃げて乱れ
          た様子を見せる。
ケンイチの声「ミチロウ、ま、待てって」
ミチロウ「うるせー!」
ケンイチの声「分かるだろ、記録だよ。コレだってさ、お前が生
     きてるってさ、お前がこの世に産まれてきた証っていう
     さ‥‥」
          逃げながらも迫って来るミチロウを捉えていた画面は
          (ケンイチが転んだので)乱れる。
          (ケンイチが手を離したので)不安定な構図になりながら
          も止まった画面の中にミチロウの足下が大きく映ってい
          る。
          ミチロウの足、苛立たしげに画面に向かって砂を蹴散ら
          す。

23   ユミコの日常・モンタージュ
          登校途中、友人と楽しそうに歩くユミコ。
            ×          ×
          剣道場で、稽古するユミコ。
            ×          ×
          ジャージ姿で犬を連れランニングするユミコ。
          立ち止まり汗を拭く。
          ユミコ、(カメラに)気付き軽く会釈して「あ、こんにち
          は」。
            ×          ×
          体育の授業中、ソフトボールで、バッターボックスに立
          つユミコにズームアップすると、背後でこちら(カメラ)
          の方を指差しひそひそ話をしている女子たちの姿が分か
          る。
          ユミコ、その女子たちに声を掛けられ、一旦はそっちの
          方を見るが、こちら(画面の方)を向くと困った様子でバ
          ットを置く。
          以上の映像にケンイチのナレーションが聞こえて来る。
ケンイチのナレーション「どうやら私が日々ユミコちゃんの姿を
     追っていたことがばれたようだ。これもミチロウの成長
     記録の一旦に過ぎないのだが‥‥この気持ちはなかなか
     通じない。ミチロウはユミコちゃんに振られたのが私の
     せいだと思い込んでいる」

24   或る不動産屋
          (何かの物陰から撮っているような映像で)店内で昼行灯
          のようにぼけっとしたケンイチの姿が映っている。
          若い女子事務員にコピーを頼まれるが、受け取った紙束
          を床にばらまいてしまうケンイチ。
          女子事務員、呆れ果て大きなため息をつきケンイチを無
          視して紙を拾う。
          気弱な笑みを浮かべてそれを手伝うケンイチ。 
          ケンイチが拾い終わった紙を奪い取ると自分でコピーす
          る女子事務員。
          ケンイチ、自分のデスクにつき再び昼行灯。
ミチロウのナレーション「コレがアイツの全てだ。仕事場では相
     手にされないもんだから、家族をおもちゃにして喜んで
     る。ずっとそうだった!愛情!?ふざけんな!」

25   ミズシマ家・階段 〜 ミチロウの部屋前廊下
          主観の映像が階段を上っていき、荒々しい文字で『入室
          禁止!』と貼紙のされた部屋の前で立ち止まる。
          突然ドアが開き、目つき険しくミチロウが画面を睨みつ
          ける。
ミチロウ「うぜぇんだよ!」
          力任せにドアを閉めるミチロウ。
ケンイチのナレーション「私はいつだってミチロウのことだけを、
     タエコのことだけを思ってきた。しかし、タエコも最近
     は‥‥」

26   タエコの日常・モンタージュ(全て隠し撮りされた映像)
          老人福祉センターで、老人Aの運動の手伝いをしている
          タエコ。
            ×          ×
          巡回入浴車で、老人を風呂に入れているタエコ。
            ×          ×
          薬局で、メモ片手に成人用おむつを買っているタエコ。
          ──などなど。
ミチロウのナレーション「昔付き合っていた男の写真をいつまで
     も隠し持っている女。ずるい生き物。それが俺の母親だ。
     ボランティアをしているのだって息苦しい家庭から、情
     けないアイツから、俺から逃げる口実に過ぎない。まっ
     たくの偽善」 
         
27   ミズシマ家の生活素描
          台所のシンクに溜まった洗ってない食器。
          テーブルに食い散らかしたままのコンビニ弁当の空き容
          器。
          ゴミが溢れているゴミ箱。
          洗ってない洗濯物の山。
ケンイチのナレーション「タエコ‥‥お前は何をしてる?他人の
     面倒をみてる場合じゃないだろう。心配じゃないのか?
     家族のことが、ミチロウのことが‥‥」

28   町の風景の点描
          駅の改札から吐き出される通勤通学の人々。
          コンビニの前でたむろする小学生たち。
          退屈そうな警察官。
          八百屋の前で井戸端会議に興じる主婦たち。
          風になびく青々とした稲穂。
          夕陽に染まった空。
          ──ありふれた田舎の日常風景。
ミチロウのナレーション「あまりにもありふれていて退屈な毎日。
     嘘臭い。こんな町実在していいのか?これって、本当は
     みんなが平和な毎日っていうのを演じているだけじゃな
     いのか?」

29   中学校・屋上
          どこまでも続く青い空を映した印象的な画面の下から   
          ミチロウがフレームインして。──
ミチロウ「脳みそがかゆい」

(つづく)  


    



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シナリオ『電影マニアックス』4


16   写真。──
          ──には、ちょうど顔の部分が破かれてなくなっている
          男と腕を組んで笑っている若き日のタエコの姿が写って
          いる。
ケンイチのナレーション「いつだって事件は突然やってきます」

17   ある郊外型の巨大スーパーマーケット・全景
          駐車場には車が行き交い家族連れで賑わっている。
ケンイチのナレーション「このスーパーマーケットは、最近、社
     長が二代目になり店舗を拡大し、立派な成功を見せてい
     ます。実は、何を隠そう妻タエコは、私と結婚する以前
     はこのスーパーで働き、よく買い物もしていたようです
     が、かつての薄汚れた店の時と比べてもより便利で豊富
     な品揃えになっているというのに、何故か今では決して
     この店で買い物をしません」
          この画面に囁くようなケンイチとタエコの声が聞こえて
          くる。
ケンイチの声「大丈夫だ」
タエコの声「大丈夫って?」
ケンイチの声「大体ミチロウに分かるはずがない」
タエコの声「私のこと、責める?」
ケンイチの声「俺たちは誰が何と言っても立派な家族だ」 
タエコの声「‥‥」
ケンイチの声「でも‥‥写真は捨てた方がいいな」
タエコの声「‥‥一つお願いがあるの」
ケンイチの声「何?」
タエコの声「ビデオ‥‥やめて欲しいの」

18   ミズシマ家・リビング
          (隠しカメラの映像で)テーブルを挟んで座っているケン
          イチとタエコ。
ケンイチ「急に‥‥どういうこと?話がつながってないよ」
タエコ「‥‥耐えられないの」
ケンイチ「何が?」
タエコ「無理矢理みたいで」
ケンイチ「無理矢理?」
タエコ「‥‥苦しいの。分かってよ」
ケンイチ「よく分かんないよ」
タエコ「あなた‥‥何考えてるの?」
ケンイチ「俺が‥‥何考えてるか?」
タエコ「そうよ」
ケンイチ「俺が‥‥」
タエコ「私‥‥あなたが怖い」
ケンイチ「俺が怖い!?」
タエコ「‥‥」

19   同・階段 〜 リビング
          (ミチロウカメラの映像で)ゆっくりと主観映像が下りて
          行く先から言い争うケンイチとタエコの声が聞こえてく
          る。
ケンイチの声「俺が何か間違ったことをしてるっていうのか!」
タエコの声「どうして分からないのよ!」
          画面はリビングに近付いて行き、二人の死角になった物
          陰から室内の様子を映す。
ケンイチ「俺は家族の記録を、ミチロウの成長をビデオに収めて
     いるだけだろうが!」 
タエコ「だからそれが!」
ケンイチ「それが何だ?」
タエコ「無理矢理家族ごっこしてるみたいで怖いのよ!」
          画面、ケンイチにパン、ズームアップ。
ケンイチ「何が家族ごっこだ!ふざけんな!俺は‥‥家族を愛し
     て何故いけない!何が怖いっていうんだ?俺はやめない。
     絶対にやめないからな!」
          (隠しカメラの映像で)テーブルにひれ伏すタエコを置い
          て苛々した様子で去るケンイチの背後にビデオカメラを
          構えたミチロウの姿が見える。
          画面、フェードアウト。

20   キャンプ場・コテージ・中
          目を輝かせてみて回り、いちいち歓声を上げるミチロウ
          とタエコ。
ミチロウ「家の中にハシゴ、ハシゴがある!」
タエコ「すごーい、ここのキッチン、きれい!何で?」
          二階から「おーい」と手を振るミチロウ。
タエコ「お風呂広ぉーい!ホントに山小屋なのここ、ホテルみた
     い!」
ケンイチの声「ミチロウ!魚釣りに行くぞ!ここでは自分の飯は
     自分で用意しなければならんのだ!」
ミチロウ「そんなの知ってるよ!」
タエコ「(二人に)頑張ってね」
ミチロウ「おおっ!」
          気忙しく、しかし、楽しげにハシゴを下りてくるミチロ
          ウ。

21   川原
          (三脚で固定された映像で)釣り糸を垂れているケンイチ
          ミチロウ。
ミチロウ「釣れないねぇ」
ケンイチ「釣りは根気良く待つのがコツ。そのうち掛かるって」
            ×          ×
ミチロウ「あっちの人、結構釣ってるね」
ケンイチ「焦らない、焦らない」
            ×          ×
          (手持ちカメラの映像で)岩場を進んでいる画面。
ミチロウの声「ちょっとぉ!」
          画面、パンされると慣れない足取りで歩くミチロウの姿
          が映ってくる。
ケンイチの声「ミチロウ、もたもたするな!魚が逃げちゃうぞ」
ミチロウ「もーう、焦らないんじゃなかったのぉ!」
ケンイチの声「善は急げだ!」
ミチロウ「もーう、勝手なんだか‥‥あ」
          ミチロウ、言いかけて足を滑らせあっと言う間に画面か
          ら見えなくなる。
ケンイチの声「え‥‥」
          画面、(ケンイチがミチロウの落ちたところまで走った
          ため)急激な乱れを見せてから川面を流されているミチ
          ロウを捉える。
ケンイチの声「ミチロウ!」
          画面、流されるミチロウを追う。
ケンイチの声「ミチロウ!ミチロウ!」
          ミチロウ、激流に揉まれている。
ケンイチの声「(息せき切って)お、お、思いも寄らぬ突然の事故。
     ミチロウ君、大ピンチ!シャレになりません。果たして、
     果たしてミチロウ君は無事生還出来るのか!このピンチ
     をどうやって切り抜けるのか!」
          なんとか岩にしがみついたミチロウ。
ケンイチの声「あっ、岩です。岩にしがみつきました!ミチロウ、
     そこでじっとしてろ!」
          画面は乱れ川の中に入って行く様子を音声で伝えるが。──
ケンイチの声「おっ!?」
          ──急に整った画面に映ってきたのは自力で岸に向かお
          うとしているミチロウの姿。
ケンイチの声「なんとっ!ミチロウ君は自力で岸に戻ろうとして
     いますっ!ここで私はどうするべきでしょうか?ミチロ
     ウ君は男の子です!これしきのことは自力で何とかしな
     ければこの先人生の激流に呑まれていくばかり!今まさ
     にこの川の流れがミチロウ君の人生を象徴していると言
     っても過言ではないでしょう!私は、私は心を鬼にして
     このミチロウ君の勇姿を見守りたいと思います!頑張
     れ!頑張れ!頑張れ!負けるな、負けるな、負けるなミ
     チロウ!」
          ケンイチの声はいつしか早口の実況になり絶叫している。
          ケンイチの実況が続く中、ミチロウはなんとか無事岸に
          たどり着く。
ケンイチの声「無事生還!無事生還であります!この激流を見事
     乗り切ったミチロウ君、さすがと言うほかありません!
     ミチロウ、大丈夫か?痛いところないか?」
          ミチロウ、自分の身体を探る。
ミチロウ「少し擦りむいたかな」
ケンイチの声「うん、大丈夫だ!そのくらい唾つけときゃ治る!」
ミチロウ「びっくりしたぁー」
ケンイチの声「なんの!」
          画面の端からケンイチの手が伸びてきてミチロウの頭を
          乱暴に撫でつける。
ケンイチの声「さすが父さんが育てた子だ!さすがだぞ!いい子
     だぞ!」
ミチロウ「僕、カッコ良かった?」
ケンイチの声「おお、カッコ良かったぞ!いい絵も撮れたぞ!」
ミチロウ「やったね!」
ケンイチの声「おおっ!」
ミチロウ「僕ね、僕ね、絶対助かると思ってた。だからね、だか
     らね、平気だったよ!全然怖くなかったよ!」
ケンイチの声「おおっ!」
ミチロウ「ンッ?」
          ミチロウ、自分の背後を気にする。
ケンイチの声「どうした?」
          画面、ミチロウの背後に回り込む。
          ミチロウ、見ると上着のフードの中で魚が跳ねている。
ケンイチの声「おっ!大漁じゃないか!魚も捕れたしお母さんに
     持っててやろうぜ」
ミチロウ「うん!」
          画面は、ケンイチに促されたので歩き出したミチロウの
          後姿を追う。
          すると突然ミチロウが立ち止まって振り向く。
ケンイチの声「どうした?」
ミチロウ「うん‥‥あのさぁ」
ケンイチの声「‥‥このことはお母さんに言わない方がいいね」
ケンイチの声「えっ?」
ミチロウ「それだけ!」
          微笑むミチロウ。
          ここで画面は、一瞬静止してからスローモーションにな
          り、向き直るミチロウを見せる。
          スキップして去るミチロウの後姿。
ケンイチのナレーション「今思えばこの頃が私たち家族にとって
     一番楽しい時期だったのかもしれない」
          ──フェードアウト。

(つづく)  


    



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2007-06-23

シナリオ『電影マニアックス』3


10   画面は。──
          夜道を歩く裸足の男の足を映している。
ケンイチの声「えー、かれこれ四時間ほど歩き回っています。辺
     りはすっかり暗くなってしまいました。お腹も空いてま
     す」
          画面は、足下から夜の住宅街にパンされる。
          街灯もまばらで暗い街路。
ケンイチの声「タエコはまだ怒っているでしょうか?‥‥たぶん
     怒っているでしょう」
          家の前に来て止まり、『水島』の表札が映される。
ケンイチの声「帰るのはここだけです」
          画面の隅から伸びてきた手がドアノブを回す。
          回らないドアノブ。
ケンイチの声「‥‥鍵が掛けられています。見ればどの窓も明か
     りは灯っておらず真っ暗。実はそろそろ大丈夫かなと思
     ったのですが‥‥ここだけです。私の家族がいるのはこ
     こだけです」
          フェードアウトされて真っ暗になる画面。
          そこに誕生日を祝うケンイチとタエコの歌声が聞こえて
          きて『 1991年 ミチロウ 10才の誕生日 』の文字
          がカットインする。

11   ミズシマ家・リビング 〜 ケンイチの部屋
          テーブルの上にはバースデーケーキ。
          照れた様子のミチロウ、ケンイチとタエコの歌が終わる
          と同時に蝋燭の火を吹き消す。
タエコ・ケンイチの声「今日から十才、おめでとう」
          照れ笑いを浮かべるミチロウ。           
ケンイチの声「じゃぁ、プレゼントだな」
          画面手前から差し出される包みを受け取るミチロウ。
ケンイチの声「さーて何でしょう?」
ミチロウ「何だろう?」
          包みを開けると出てきたのはビデオカメラ。
ミチロウ「おお!」
タエコ「(顔色が変わり)あ」
ケンイチの声「お父さんのお古で悪いけどな、お父さん、新しい
     の買っちゃったし」
          ミチロウ、嬉しそうにさっそくビデオカメラを構える。
ケンイチの声「どうだ?」
ミチロウ「今日から僕も映画監督」
ケンイチの声「お、さすがお父さんの子だ!」
ミチロウ「当たり前じゃん」
ケンイチの声「お父さんはなぁ、若い頃、映画監督目指してたん
     だぞぉ」
ミチロウ「ふーん」
ケンイチの声「そっかぁ、そっかぁ‥‥ミチロウが映画監督かぁ。
     (噛み締めるように)うん、我が息子‥‥さすが我が息子
     だ」
          ケンイチの声の向こうで、ドタバタと廊下を走って行く
          音が聞こえる。
ミチロウ「何?」
          大きな「あー!」というケンイチの声が聞こえたと同時
          に画面は乱れ、廊下を通り、ビデオ編集機、その他の機
          材で一杯のケンイチの部屋でタエコが棚から段ボール箱
          にビデオテープを投げ捨てている様子が映し出される。
ケンイチの声「ちょ、ちょっと、やめろってば」
タエコ「約束だったわよね」
ミチロウ「何してんの?」
ケンイチの声「悪かったよ。もう増やさないから」
タエコ「聞き飽きた。そのセリフ」
ミチロウ「お母さん‥‥」 
タエコ「今日からここはミチロウのものです。好きに使ってね」
ケンイチの声「(情けなく)おーい、タエコォ」
          ミチロウ、画面に迫ってきてVサイン。
ミチロウ「(満面の笑みで)ピース!」

12   軽快な音楽と共にミチロウカメラによる日常の点描映像
          小学校の教室で、画面に向かい我先にと挙って一発ギャ
          グを披露する賑やかなミチロウの同級生たち。
            ×          ×
          『家庭の医学』と書かれた本のアップからズームバック
          されると、ミチロウの友達の部屋の中で本を中心として
          数人の少年たち(ダイチ、リク、ソラ)が集っている様子
          が映る。
リク 「コレ何て読むの?」
ダイチ「イン‥‥クチビル?」
ソラ 「クリトリスって何?ねぇ、ミッちゃん、知ってる?」
          ソラ、画面を見る。
ミチロウの声「何それ?」
          画面は、全体を映しているところから再び本のアップへ
          となり、そこには女性器の構造説明図が描かれている。
ミチロウの声「ヴァギ‥‥ナ??」
            ×          ×
          放課後の校庭、(遠くから撮影しているような映像で)鉄
          棒の周りに集まっているユミコと数人の女の子たち(ユ
          ミコ達の声はよく聞こえない)。
          鉄棒に掴まり数々の華麗な技をこなすユミコ。
ダイチの声「ユミコ撮ってんだろ?」
          画面は、動揺にぶれてからニヤけたダイチを映す。
ミチロウの声「ち、違うよ!」
ダイチ「ヘンターイ。女なんか映してんの」 
ミチロウの声「違うってば!」
          ここで画面はストップ。──逆回転しユミコが鉄棒に掴
          まる画面まで戻る。

13   低い視点で撮影されている映像の中、ある部屋のドアが開けられ、編集機
 の前にいるケンイチの姿が見える 
ケンイチ「(こなして)お、ミチロウ、新作か?」
          編集機のモニターには、ユミコが鉄棒をしている場面が
          映し出されている。
          低い視点がケンイチに近付いて行き、画面端からビデオ
          テープが差し出される。
ミチロウの声「今度のは絶対自信作」
ケンイチ「ホントかー?そういうのに限って駄目なのが多いんだ
     ぞ」
ミチロウの声「絶対、絶対、ゼーッタイ!」
ケンイチ「ミチロウな、撮ってる自分が楽しいのと見る人が楽し
     いのとは違うんだぞ」
ミチロウの声「大丈夫だってば」
          ケンイチ、受け取ったビデオテープをデッキにセットす
          る。

14    小学校・廊下
          画面には二十代半ばくらいの女性(コモリ先生)が歩く後
          姿が映っている。
ミチロウの声「ねぇねぇ、先生」
コモリ先生、振り向き「何?」。
          コモリ先生の周りを囲むダイチたち。
コモリ先生「なーによ、みんなで」
ミチロウの声「質問でーす」
コモリ先生「はい、何でしょう?」
ミチロウの声「あのさぁ、赤ちゃんってどこから産まれるんで
     か?」
コモリ先生「は?」
          努めて平静を装うコモリ先生。
          ニヤけているダイチたち。
コモリ先生「お母さんのお腹でしょう?」
ミチロウの声「お腹からどう出て来るの?」
          画面は、コモリ先生の顔にズームアップされる。
コモリ先生「(ちょっと考えて)あのね、花で言えば雄蕊と雌蕊が
     くっついて‥‥」
ミチロウの声「花の話してんじゃないぉ、人間の話!」
コモリ先生「えー、それはね‥‥あのぉ、何て言うのかな‥‥」
          画面は、顔を真っ赤にして動揺を隠し切れないコモリ先
          生のアップから更にズームアップ、クローズアップ。
ダイチの声「ウチのパパは女の人の足の間から出て来るって言っ
     てたよ」
ソラの声「(わざとらしく)えー、足の間って?」
ミチロウの声「どこよ、どこ?ねー、先生、どこにそんなとこあ
     んの?」
コモリ先生「(泣きそうになって)知らない!」
ダイチの声「ねー、先生、見せて、見せて!」
ミチロウの声「そうだ、見せてよ、先生」
コモリ先生「おあずけ!」
          画面はズームバックし、慌てて逃げるコモリ先生のスカ
          ートをめくろうと追うダイチたちの姿が映し出される。

15   ミズシマ家・ケンイチの部屋
          砂嵐の画面から、ケンイチにパンする低い視点で捉えら
          れた映像。
ケンイチ「いいじゃん」
ミチロウの声「でしょ」
ケンイチ「さすが我が息子」
          ケンイチの手が画面の方に伸びてくる。(ミチロウの頭
          を撫でている雰囲気)
ケンイチ「これからも頑張れ!」
ミチロウの声「うん!」
          
16   同・リビング
          画面は、食事をしながら古い文庫本を読んでいるケンイ
          チの顔のアップからズームバックされてミズシマ家の夕
          餉の様子が映って来る。
          タエコ、本から目を話さず器用に箸を使い食事を続ける
          ケンイチを気にしながらも見て見ぬ振りをしている。
ミチロウの声「ねぇ、何読んでるの?」
ケンイチ「(本から目を離さずに)んーっ、昔の、大昔の中国の英
     雄たちが戦う話」
ミチロウの声「へぇ、面白いの?」
タエコ「ミチロウ、ご飯の時はやめなさい」
ケンイチ「(本を読んだまま)そりゃもうね。ミチロウももう少し
     大きくなったら読むといいよ」
ミチロウの声「うん」
タエコ「ミチロウ!お行儀悪いでしょ!」
          タエコの手が伸びてきて画面は乱れる。
            ×          ×
          (部屋の隅に取り付けられた隠しカメラの映像で)ミチロ
          ウからビデオカメラを取り上げるタエコ。
ミチロウ「僕ばっかり!お父さんだって!」
タエコ「お父さんはいいの」
ミチロウ「ずるいよ!」
タエコ「いいから食べなさい。ご飯終わったら返してあげる」
ミチロウ「魚嫌い!」
タエコ「好き嫌いは駄目です」
          ミチロウ、仏頂面で魚を口にする。
          険悪ムードの食卓で、ずっと本から目を離さなかったケ
          ンイチが(録画されているか)確認をするように画面の方
          をこなす。
          こっそりとリモコン操作をするケンイチ。
          画面は、機械的な動作でミチロウニズームアップ。
          苛立たしげに魚を咀嚼していたミチロウは、突然、何を
          思ったか口の中のものをテーブルの上にボロリと吐き出
          す。
タエコ「ミチロウ!」
          言ってタエコ、ミチロウの頬に平手打ち。
          画面は、機械的な動きでズームバックし、静まり返った
          室内の様子を映す。
          黙って耐えていたミチロウ、立ち上がりタエコから乱暴
          にカメラを取り戻す。
ミチロウ「似てて何がいけないの!」
          カメラのスイッチを入れるミチロウ。
          (ミチロウカメラの映像で)
タエコ「お行儀が良くないって言ってるんでしょ」
ミチロウの声「似てた方がいいんじゃないの?」
タエコ「違います。やめなさい!」
          (隠しカメラの映像で)ミチロウ、カメラを構えながらポ
          ケットから一枚の写真を出しタエコに見せる。
タエコ「!」
ミチロウ「誰これ?」
タエコ「どこからこんなものを?」
ミチロウ「このおじさん誰?」
          (ミチロウカメラの映像で)画面の前に大きく映っている
          写真の裏側。
タエコ「知らないわ」
ミチロウの声「嘘つき!」
タエコ「(動揺を隠しきれず)と、友達よ。お母さんの学生時代の
     友達よ」
          画面、パンされると呆然とタエコを見つめるケンイチの
          姿が映る。
ケンイチ「母さん、それ‥‥」
          ケンイチ、ミチロウカメラの視線に気付くと慌てて本に
          目を落とし何事もなかったかのように取り繕う。
          (隠しカメラの映像で)ミチロウから写真を奪おうするタ
          エコだが、その際、写真が破ける。
ミチロウ「お母さんの嘘つき!嘘つき!嘘つき!」
          タエコ、ミチロウの激しい罵倒に言葉を返すことが出来
          ず、思わず平手打ち。     
          沈黙に支配される室内。
          部屋を後にするタエコ。


(つづく)
  


    



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2007-06-22

シナリオ『電影マニアックス』2


4 ミズシマ家・リビング
          澄ました顔で画面に向っているタエコ。
          そこに、『大人になったミチロウに明かす!子供の頃、   
          君はこう思われていた!』と書かれた文字がフェードイ
          ンする。
          文字が消えて、タエコの隣に座り画面に向かうスーツ姿
          のケンイチ。
ケンイチ「えー、大人になったミチロウ君、こんにちは。1986   
     年の7月28日です。今日は、今5才である君をお母さ
     んがどんな風に思っているかを語って貰いたいと思って
     います」
          画面から外れるケンイチを目で追うタエコ。
タエコ「ねぇってばぁ」
ケンイチの声「何だっていいんだよ。今はこうだから将来はどう
     とか‥‥素直に‥‥緊張しないで」
タエコ「もーう、嫌だよぉ」
ケンイチの声「早く、テープが勿体ない」
タエコ「‥‥ハロー、大人になったミチロウ君」
ケンイチの声「おっ、いいねぇ。その調子」
タエコ「(少し気を良くして)他の子と遊んでいるのを見てるとお 
     母さんはあなたが他の子たちと比べて鈍いかな、と感じ
     る時があります。いいのかな、こんなこと言っちゃって」
ケンイチの声「いいの、いいの。何でも」
タエコ「‥‥あとねぇ、おねしょがねぇ、どうしておしっこまみ   
     れの布団とかパジャマのままで平気な顔をしていられる
     のかがね、汚いって思ってないみたい。そうそう、それ
     からぁ、女の子とばっかり遊んでるし‥‥あなた、妙に
     女の子に甘え上手で‥‥」
           ×            ×
          タエコのインタビューと同じポジションのまま、人物は
          初老の女性(ケンイチの母・チヨコ)に変わっている。
チヨコ「んー、そんなにしょっちゅう会ってるわけじゃないしさ
     ぁ‥‥」
ケンイチの声「冷たいなぁ、孫じゃないか」
チヨコ「だってさぁ‥‥そうねぇ‥‥世の中どうなるんだかさっ
     ぱりだしねぇ。ちょっと変わった子だし‥‥」
ケンイチの声「なんか‥‥それだけ?」
チヨコ「だって‥‥それだけって、これで充分だろ。ケンイチ、
     母さん来たばっかりで疲れてんだから。(画面を指して)
     高いんだろ、こういう機械。もう子供も‥‥」
          ──と、画面はここで唐突に途切れる。

5   ミズシマ家・和室
          スーツ姿のケンイチ、フレームインして来ると一人芝居
          よろしく思わせ振りに室内を歩き回る。
ケンイチ「(画面に向かって)オホン。私は以前から子供が出来た
     らどうしてもやってみたいことがありました。記憶なん
     て実に曖昧なものです。私は、それが我慢出来ない」

6   同・リビング
          テレビを見ているタエコ。
タエコ「何これ?」
          言って画面の方を見る。
タエコ「何撮ってんのよ!?」
ケンイチの声「あとで編集用にさ」
 タエコ「わけ分かんない」
ケンイチの声「いいから、いいから。まぁ、見てよ」

7   同・和室
          画面に向かって喋っているケンイチ。
ケンイチ「そこで様々な実験を試みることで現時点のミチロウ君
     の知力、発育の度合いを記録しておきたいと思うのです。
     私たち家族が、将来、子供の頃のミチロウの思い出話が
     ちゃんと出来るような正確な記録を!まずはこれからで
     す」
          言って後ろ手に隠していたバナナの房を(部屋の隅に備
          え付けられたカメラに向かって)かざし笑顔を浮かべる
          ケンイチ。
テレビを見ているタエコの声「えー、いつ撮ったのよぉ?」
テレビを見ているケンイチの声「(得意気に)こっそりとね」
テレビを見ているタエコの声「もーう」
            ×            ×
          先ほどと同じ和室を映した映像に、『実験1食欲』の文
          字が、フェードインして消える。
          画面右端上には、天井からぶら下げられたバナナが映っ
          ている。
          入って来るミチロウとケンイチ。
ケンイチ「じゃぁお父さん出掛けるけど、おやつはあそこに用意
     しといたから」
ミチロウ「あんなところの取れないよぉー」
ケンイチ「ああして吊るしておくと凄く美味しくなるんだよ(わ
     ざとらしく時計を見て)あ、行かなくっちゃ、じゃ」
          足早に去るケンイチ。
          残されたミチロウ。
ミチロウ「すごくおいしいバナナ‥‥」
          ミチロウ、バナナを見上げてその下をグルグルと回る。
            ×            ×
          棒を手にするミチロウ。    
          棒はバナナに届くもの、取れない。
テレビを見ているタエコの声「これってさぁ、猿の知能テストじ
     ゃなかったっけ?」
テレビを見ているケンイチの声「違うよ。まぁ猿にもやるけど、
     元々は歴とした人間の子供用のテストだよ」
テレビを見ているタエコの声「ウソォ」
テレビを見ているケンイチの声「嘘じゃないって。ちょっと静か
     に。ここからが面白いんだから」
            ×            ×
          ミチロウ、木箱を真下へ動かし上に乗りバナナに手を伸 
          ばすが届かない。
テレビを見ているケンイチの声「ホラ!俺の計算違いで届かない
     んだよ」
テレビを見ているタエコの声「何それ!?」
          ミチロウ、背伸びをするがよろけて倒れる。
テレビを見ているタエコの声「あっ!」
          揺れるバナナ。
          号泣するミチロウ。
テレビを見ているタエコの声「ちょっとぉ!」
            ×            ×
          グズグズしながらも再び台の上に乗り棒を使うミチロウ。
          ミチロウ、見事バナナをキャッチする。
          部屋の隅で泣きながらバナナを食べるミチロウ。
テレビを見ているケンイチの声「面白いだろ?」
テレビを見ているタエコの声「え‥‥うん、まぁ‥‥でも」
            ×            ×
          『実験2恐怖』のテロップ。
          『実験1』と同じ和室の同じアングルで撮影された映像
          の中にいるケンイチとミチロウ。
          部屋の隅には小さな段ボール箱とドッグフードが置かれ
          ている。
ケンイチ「じゃぁ、この部屋でお留守番しててね」
ミチロウ「(段ボール箱を指して)あれ何?」
ケンイチ「いいところに気付きました。ちょっと、ちょっと」
          ケンイチ、ミチロウを手招きして段ボールの中を見せる。
          途端、悲鳴を上げて段ボール箱から離れるミチロウ。
ミチロウ「いやー!!犬、犬、怖い、犬、いやー!!」
ケンイチ「おとなしい犬だから大丈夫。噛んだりしないよ」
          ミチロウ、ケンイチの言うことに貸す耳はない。
ケンイチ「(無視して)ご飯あげといてね。じゃ、お父さんはお仕  
     事だから」
ミチロウ「いや、いや、待って。待って、お父さーん!!」
          ミチロウ、ケンイチが出て行ったあと閉められた襖を開
          けようとするが、どんなに力を入れてもびくともしない
          ので、観念して部屋の中をうろうろする。
          恐る恐るドッグフードを手にするミチロウ。
テレビを見ているタエコの声「なんかこういうのって‥‥」
テレビを見ているケンイチの声「いやいや言いながらもちゃんと
     餌をやろうとしてるんだな、偉いよな!」
テレビを見ているタエコの声「うん‥‥でも‥‥」
          ミチロウ、段ボール箱の中から犬の鳴き声が聞こえてき
          て慌てそこら中にドッグフードをばらまき、押し入れに
          隠れる。
            ×            ×
          部屋の隅にうずくまっている子犬。
          押し入れの襖がそっと開き、気配で尻尾を振り吠える子
          犬。
          「いやーっ!!」と、ミチロウの叫び声と共に押し入れ  
          の襖はピシャと閉められる。

8   同・リビング
          無気味な静けさをたたえ画面を食い入るように見つめる
          タエコ。
ケンイチの声「(笑いながら)これいいよなぁ!ミチロウが大人に
     なった時これ見せるのが楽しみでもう!」
タエコ「‥‥」

9   同・和室
          画面一杯に映し出された、背後から全裸の黒人男性に抱
          き締められた全裸の白人女性の写真。
          そこにフェードインしてくる『実験3性』のテロップ。
テレビを見ているタエコの声「ちょっと、何よ、これ」
テレビを見ているケンイチの声「ホント、お前はせっかちだな」
テレビを見ているタエコの声「そういうことじゃないでしょ」
          写真は、本の表紙で、ケンイチによって和室の真中に放
          られる。
            ×            ×
          本の投げ出された和室に入って来るミチロウとユミコ。
テレビを見ているタエコの声「何よ、ちょっと、ユミコちゃんま
     で引っ張り出して」
テレビを見ているケンイチの声「うるさいよ、お前は」
          画面の隅に少し見えたケンイチはすぐに姿を消し、室内
          にはミチロウとユミコだけになる。
          今まで実験の映像とは違い、一台のカメラだけで捉えた
          ものではなく何台ものカメラを設置し様々な角度から、
          さっそく本に興味を示すミチロウとユミコの様子が丁寧
          に映し出され、尚且つ編集されたものである。
テレビを見ているケンイチの声「やっぱ、この問題は大事だから  
     さ。カメラ四台だぜ。本格的だろ」

10   同・リビング
          激しくテーブルを叩くタエコ。
タエコ「そんなことはどうだっていいの!よそ様の子まで!あん
     たは自分が何やってんのか分かってんの!?」
ケンイチの声「何って‥‥」
タエコ「いつまで撮ってんのよ!」
          タエコが上げた手を振り下ろした瞬間、画面が乱れる。
          (タエコがケンイチに平手打ちをしたのである) 
ケンイチの声「痛ぇな!!」
          画面、乱れながらもタエコを映す。
タエコ「馬鹿!どうしようもない馬鹿!」
ケンイチの声「馬鹿とは何だ!俺だってなぁ、一生懸命なんだよ!
     将来絶対ミチロウのためになるって、みんなの為になる
          って‥‥」
タエコ「うるさい!」
ケンイチの声「聞けって!」
          画面は、タエコが「こんなモノ!こんなモノ!」と言いながら
          襲いかかって来るので思い切り乱れた様子を見せ、
          次の瞬間、苦悶に歪むケンイチの顔を映し出す。(タエ
          コがケンイチの腹を殴ったのである)
          どこからか踏切の警報の音が聞こえる。


(つづく)
  


    



不機嫌な天使

Book
不機嫌な天使

著者:長濱 英高

販売元:文芸社

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2007-06-21

シナリオ『電影マニアックス』1


登場人物

ミズシマミチロウ  ( 5 ~ 20 )    主人公
    ケンイチ  ( 28 ~ 43 )    ミチロウの父
     タエコ  ( 26 ~ 41 )    ミチロウの母

ユミコ       ( 5 ~ 20 )    ミチロウの友達
ダイチ       ( 10 ~ 15 )      〃
リク        ( 10 ~ 15 )      〃
ソラ        ( 10 ~ 15 )      〃
チヨコ       ( 55 )      ミチロウの祖母
コモリ先生     ( 25 )      ミチロウの小学校の先生  
テラウチ先生    ( 36 )      ミチロウの小学校の先生
サカキ       ( 38 )      スーパーサカキヤ社長

アヤ        ( 23 )      ミチロウの同棲相手
シバ        ( 21 )      ミチロウの友達・不良
キリュウ      ( 24 )         〃   ・路上シンガー
ノムラ       ( 37 )      雑誌記者
ナツミ       ( 29 )      野村の愛人
ミヤマ       ( 44 )      ミヤマ企画社長
クミ
メメコ       ( 22 )      キリュウの恋人
トキコ       ( 26 )      ミチロウの恋人
キリュウの父
キリュウの母
タカノ
イシダ
銀行強盗A
銀行強盗B
ニュースキャスター
女子アナウンサー
リポーターの女
ドバシ
刑事A
刑事B


その他


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

注・あらかじめのお断りとして。──
 このシナリオに書かれたすべてのシーンは、ホームビデオで撮影されたもので、そのおおむねは、登場人物であるミズシマケンイチ、もしくは、息子のミチロウの主観により撮影されたものである。

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

1   乱れた映像の中に。──
          ──建物、空などが忙しく見えては消え、次には、男(ミズシ
          マケンイチ)がフレームインしてカメラ目線で話し始める。    
ケンイチ「今日はミチロウ君が始めて幼稚園に行く日です」
          ケンイチ、それだけ言って画面に向かって来るとフレームアウ
          トする。(ケンイチ、カメラの背後 に回り込む)
          画面、パンされ、或る家(ミズシマ家)の開けっ放しである玄関
          が映る。
          玄関の向こうの廊下を裸同然の男の子(ミズシマミチロウ)が駆
          け抜ける。
ケンイチの声「おーい、まだ?もう撮れるぞ!」
          ──と、呼びかける声に返事はなく、家の奥からは、「イヤ、
          行きたくないの!」と、駄々をこねるミチロウの声が聞こえる
          のみ。
          画面は、家の外から玄関を通って奥の部屋へと行き、ミチロウ
          の声と諭すタエコの声が大きく明瞭になり、窓際のカーテンを
          ぐるぐると身体に巻き付けて抵抗しているミチロウの姿を映し
          出す。
タエコ「どうして行きたくないの?幼稚園には一杯お友達いるよ。滑り台
     もあるし、ブランコだってあるんだから」
          更に激しく泣くミチロウ。
タエコ「もう!何がいやなの!?」
ケンイチの声「まぁまぁ、ちょっと今アレだし、放っておきゃ落ち着くか
     ら‥‥そしたら、な?」   
          画面の方を見るタエコ。
          タエコ、覗き込む。
タエコ「あれ、もう撮ってるの、コレ?」
ケンイチの声「うん」
タエコ「言ってよ!もう!」
          タエコ、慌てて乱れた髪を整えると泣き続けているミチロウをこ
          なし。──
タエコ「あたしも今のうちに着替えとくから」   
          ──と、別の部屋に行く。
          画面は、その後姿を追って、箪笥を開け無造作に服を選ぶタエ
          コを映す。
          タエコ、気配に気付き振り向く。
タエコ「だから着替えるんだけど」
ケンイチの声「うん」
タエコ「コラ!」
          笑い手をかざし画面を覆うタエコ。
ケンイチの声「ちょっ‥‥」
          画面、逃げるようにしてミチロウのいる部屋へ戻る。
          泣き止みかけていたミチロウ、(カメラを向けられたの気付き)
          再び大きな声で泣き始める。
ミチロウ「イヤダー、イキタクナイー!!」

2   画用紙に手書きで、『 数日後。── 』の文字

3   大勢の園児達で賑わう幼稚園バスを車窓の外から捉えた映像の中に。──
          ミチロウが元気にフレームインしてきて、画面に向かって笑顔
          で手を振ると、すぐにカメラを向けられていることも忘れ友達
          とふざけ始める。
ケンイチの声「子供というのは実に現金なもので、あれだけ嫌がっていた幼稚園を、
     たった数日で、こんな笑顔で楽しみにするようになりました」
          幼稚園バス、動き始め画面の中で段々小さくなっていく。


(つづく)
  


    



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