映画シナリオ・存在の深き眠り

2008-12-06

シナリオ 存在の深き眠り * あとがき風味♪

ひさしぶりにこの『存在の深き眠り』を開いてみた。
サンダンス・NHK国際映像作家賞の二次選考に落選してから、
ホントに久しぶりに自作を読んでみた。

「中学生は生き生きと書かれてますよね」

このコンクールの二次予選は面接なのだ。
つまり、ボクは面接で落とされたわけなんだけど(苦笑)
それはともかく、上記のセリフは、その面接の時に審査委員が言ったものだ。

正直、このセリフはピンと来なかった。
「はぁ……」って感じ。

このシナリオを書こうとした時に、まず念頭に置いたのが、

「夢のような話を描きたい」
「自分に無理ないものを書こう」
(無理のないものって……ボクの精神年齢はきっと中学生くらいだから、そんなもんかなぁ?)
「自分が面白いと思えるものだけ書こう」

この3点だった。

物語の中には、イジメや自殺が扱われている。
だけど、ボクはことさら問題作を書いたつもりはない。

ありていに現実を考えた時に、これらの事柄は、
ごくフツーにそのへんに転がっている出来事だからだ。

自分でも意識してなかったが、時間を経て自作を読んでいると、
いくつか気づいたことがある。

ひとつは、劇中の人々は皆が一様に何かの問題を抱えていて、
悩んだり迷ったりしている。
それは、大人子供に限らずだ。

ボクは、ただ自分が「面白い」と思えるものだけを描いたつもりなのだが、
意識せずにそれらを選んでいたということが、我ながら興味深かった。

現代を描こうとした時に、少なくともボクは、それらは避けて通れないことなのだろうと
思っているということを再認識した思いだ。

軽い自己発見?っていうのかな???

もうひとつは、ボクは、ここに出て来ている人々はとても「好き」だということだ。
自作の登場人物を「好き」だなんていうと、ちょっとナルシズムっぽいけどwww


『存在の深き眠り』は、出来損ないたちに対するオマージュである。

ボクは、完璧な人間なんて、存在しないと思っている。
だけど、完璧でないからこそ、人は愛すべきものなのだ。

もし、完璧なヤツなんていたとしたら、ちょっと気持ち悪いと思わない?

だから、完璧など求めてはダメだと思うのだよね。
そんなことしたら息苦しくなる。

完璧じゃないからこそ、人は人たり得るのだよ。
そして、愛おしいのである。

そんな思いで描いてたということも改めて認識して、
ちょっと自分に酔ったw(嗚呼、ナルシズム。。。wwww)

ま、だいぶ脱線してしまったが、
今回、このブログにアップするという行為で、色々な発見を出来た。

そんな機会を作ってくれたキミに感謝をして、
『あとがき風味♪』に代えようw

ありがとう!


P.S. 新作も現在構想中だ!!! (腐ったらおしまいだぜ!!)

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2008-12-01

シナリオ 存在の深き眠り 10

◇ ××中学校・職員室
          小島に学級日誌を渡している顔に絆創膏を貼ったたけし
          と亜梨沙。
  小島   「もう教室には誰もいないか?」
  亜梨沙  「高橋君と佐田さんの鞄がありますけど‥‥二人とも部活だか
       ら」
  小島   「鞄は部室に持って行けって言ってんのになぁ‥‥」
  たけし  「戸締まりはしましたから」
  小島   「分かった。じゃぁ、君たちももう帰りなさい。ご苦労さん」
  亜梨沙  「はい」
          たけしと亜梨沙、出ていこうとする。
  小島   「中原‥‥」
  たけし  「(振り返って)はい」
  小島   「あ、いや、別に‥‥気をつけてな」
  たけし  「はい?」
  
◇ 同・校門
          来るたけしと亜梨沙。
  たけし  「じゃ、俺こっちだから」
  亜梨沙  「うん。また明日」
  たけし  「じゃぁな」        
          亜梨沙に背を向け去るたけし。
          亜梨沙、たけしと逆方向に行こうと歩き出すがふと振り
          返り。──
  亜梨沙  「(たけしの背に向かって)ねぇ!」

◇ 運河沿いの道
          肩を並べて歩くたけしと亜梨沙。
  亜梨沙  「さっきからずっと黙ったままだね」
  たけし  「別に‥‥喋ることないから」
  亜梨沙  「‥‥峰岸君のお父さんの裁判、もうすぐだね」           
  たけし  「‥‥知ってる」
  亜梨沙  「峰岸君‥‥ずっとお父さんから虐待されてたって」
  たけし  「聞いた」
  亜梨沙  「私‥‥」
  たけし  「‥‥」
  亜梨沙  「私、峰岸君のこと好きだったのにそんなことにも気付かなか
       った。ずっと知らなかった」
  たけし  「俺だって‥‥」
  亜梨沙  「‥‥」
  たけし  「俺だって全然知らなかった」
  亜梨沙  「そう‥‥」
          二人、それきり黙ってしまい黙々と歩く。

◇ 岸壁
          遠くに港を行き交う貨物船が見える。
          防波堤の上に少し離れて座っているたけしと亜梨沙。
  亜梨沙  「最近、みんな松本君のことイジメなくなったね」
  たけし  「飽きたんだろ」
  亜梨沙  「‥‥ねぇ、何でそんなに離れて座るの?」
  たけし  「うるせーな。どうだっていいだろ」
  亜梨沙  「‥‥」
          亜梨沙、悪戯っぽい笑みを浮かべるとたけしに寄り添う
          よう座る。
  たけし  「やめろよ」
          すぐさま離れるたけし。
  亜梨沙  「だって寒いんだもん」
          亜梨沙、すぐにまた寄り添う。
          そんなことを何回か繰り返し。──
  たけし  「いい加減にしろよ!」
  亜梨沙  「やだ!」
  たけし  「犯すぞ!」
  亜梨沙  「‥‥いいよ」
  たけし  「えっ!?」
  亜梨沙  「いいよ。犯しても」
  たけし  「‥‥バカ、冗談だよ」
  亜梨沙  「‥‥冗談なんかじゃない」
          亜梨沙、言うやたけしに抱きつきキスをする。
  たけし  「!?」
          たけし、目を白黒させて戸惑うばかり。
          きつく、きつくたけしを抱き締め唇を離さない亜梨沙。
  たけし  「や‥‥やめ、やめろー!」
          亜梨沙を突き飛ばすたけし。
          亜梨沙、突き飛ばされた姿勢のまま顔だけを向け、たけ
          しをきっと睨む。
  亜梨沙  「私、まだ、峰岸君のこと好きなんだから!」
  たけし  「!?」
  亜梨沙  「(瞳を涙で一杯にして)ホントなんだから」
  たけし  「(口の中で)ば‥‥バカやろう」
  亜梨沙  「嘘じゃないんだから!」
  たけし  「(ハッキリと)バカやろう!!」
  亜梨沙  「バカじゃないもん!」
          たけし、突如、奇声を上げると走り出す。
  たけし  「俺のバカやろう‥‥」
          走る、走る、走るたけし。
  たけし  「(叫び)みんな‥‥バカやろう、だ!!」
          たけし、海へ向かって思い切りジャンプ。
          ──次の瞬間、全ての時間が止まる。

◇ 海中
          たけし、手足をバタバタさせて、水の中でもがているの
          か‥‥泳いでいるのか‥‥。

◇ イリュージョン
          海面に。──
          顔を出すたけし。
          あの夏の日のたけしだ。
  たけし  「サザエ、ゲーット!!」
          一気に沸き立つ岩場にいた克夫、健吾、敏之、宏明。
          たけし、笑顔になって克夫たちに向かって泳ぎ出す。 
          
◇ 銀杏並木のある舗道(夕)
          落葉で黄金色に染まった舗道を歩いているずぶ濡れのた
          けし。
          歩行者用の信号が青から赤に変わり、たけしは足を止め
          る。
          たけし、ふと足下に目がいく。
          足下には、一枚の銀杏の葉がモソモソと動いている。
  たけし  「?」
          よく見てみると動いている銀杏の葉はその葉をまとった
          蓑虫。
  たけし  「‥‥」
          たけし、その蓑虫を踏み潰そうとして。──
  たけし  「‥‥」
          ──ふと思いとどまる。
          蓑虫を拾い上げるたけし。
          たけし、拾い上げた蓑虫をじっと見つめているうち、不
          意に涙が込み上げてくる。
  たけし  「‥‥あれ!?」
          自分でも予想していなかった涙に戸惑うたけし。
          涙は、拭っても拭っても次から次へと溢れてくる。
  たけし  「何で?」
          涙を拭うのを諦めそのままにして立ち尽くすたけし。
          その時、一陣の風が吹きたけしの頬を撫でていく。
          足下の落葉がふわっと舞い上がり。──
          ──世界は今、たけしだけのためにある。
          舞い上がった落葉はそのまま風のベールに織り込まれ、
          たけしの周囲を黄金色に覆い尽くす。
          風と落葉のベールに戸惑うたけし。
          たけし、ふと気を楽にして風と落葉のベールに身を任せ
          る。
          そのまま何かに誘われるようにゆっくりと歩を進めるた
          けし。
          歩行者用の信号は赤のまま。──
          画面、フェードアウト。
          間。
          真っ暗な画面に。──
          声が聞こえてくる。
  声    「世界はワンダーランドだ」
          フラッシュ。──
          歩行者用の信号が折れ曲がり、赤になったり青になった
          り不規則な点滅をしている。
          暗転。 
  声    「一秒先のことは分からない」
          フラッシュ。──
          急ブレーキの痕跡。
          道路からはみ出し横転して白い煙を上げているトラック。
          暗転。
  声    「そして、誰もが皆何を考えているかなんて、何を感じている
       かなんて分からない」        
          フラッシュ。──
          イメージが、ものすごい速さで次から次へ浮かんでは消
          えていく。
          ──花火をしているたけしたち。
          ──全身をガムテープでぐるぐる巻きにした邦正を紐で
          縛り、自転車で引っ張っているたけし。
          ──身体の一部に火がついたホームレスの男を見て笑っ
          ているたけしたち。
          ──プロレスごっこをしているたけしたち。
          ──亜梨沙を見つめるたけし。
          ──笑顔で全力疾走するたけしと克夫。
          ──荷物を運び出し日、家を去る時の正樹の後姿。
          ──ピアノを弾いている亜梨沙。
          ──邦正の陰茎をしごいている敏之。
          ──料理をしているたけしをちゃかす克夫。
          ──邦正の描いた漫画に感心するたけし。
          ──晴彦に水を飲ませている邦正。
          ──ケーキの箱を床に叩き付ける瑞穂。
          ──敏之を殴っているたけし。
          ──たけしを無視する克夫。
          ──警備員に捕まりもがいている克夫。
          ──たけし、克夫、邦正、敏之、宏明、健吾、正樹、瑞
          穂、亜梨沙、みゆき‥‥みんなの笑顔、泣き顔、怒り顔、
          真面目な顔。
          様々なイメージが溢れ。──暗転。
  声    「ただこれだけは分かる。人は誰もが弱い生き物だ。だから僕
       らは松本をイジメて虚勢を張り強がってみせた。でも、いつだ
       って本当に強いのは松本みたいなヤツの方だ」
          フラッシュ。──
          医師、看護婦に囲まれたストレッチャーにのせられ運ば
          れる血だらけのたけし。
          暗転。
          フラッシュ。──
          屋上から飛び下りる克夫。
          暗転。
  声    「みんなは、あのクソ親父から虐待を受けていたからカッちゃ
       んが自殺したって言うけど、本当にそれだけで人は自殺出来る
       のか?僕はそう思わない。人は確かに弱い。けど、だからとい
       って人の気持ちはそんなに簡単なモノでもない。あのクソ親父
       にしたって最初からクソ親父だったわけがない。大体僕らとあ
       のクソ親父とどこがどう違うと言うんだ?カッちゃんの本当の
       気持ちなんて誰にも分からない。それは、永遠の謎で、僕らに
       課せられた宿題だ」

◇ ある病室
          テレビのバラエティ番組を見ている中年男の後姿。
  声    「ただ一つだけ想像のつくことがある。確信は出来ないけど、
       カッちゃんがあの日から僕を無視したのは、格好良く万引きを
       するはずが、しくじって恥ずかしかったからだと思う。そう思
       いたい」        
          中年男、気配に振り返り狐につままれたような顔になる。
          中年男は。──少し老けた感のあるたけしの父・正樹。
          次に、正樹は驚きに目を見開き涙を流し嗚咽を漏らす。
  声    「お父さん‥‥どうしたの?」
  正樹   「どうしたってお前‥‥たけし」
          ベッドの上にいるのは20歳前後の痩せた青年。
          青年、自分の手を見つめる。──じっと見つめる。
  青年   「僕‥‥」
          ヨロヨロと青年に近付く正樹。
          正樹、青年を力一杯抱き締める。
  正樹   「たけし‥‥良かった‥‥良かった、たけし」
  青年   「僕は‥‥」
  正樹   「たけし‥‥たけし‥‥」
          戸惑うばかりの青年。──たけしを飽くことなく抱き締
          め続ける正樹。
  たけし  「お父さん‥‥」
  正樹   「何だ?」
  たけし  「何だか凄くお腹が減ったよ」
          正樹、涙を拭い。──
  正樹   「そうか‥‥そうか‥‥分かった。すぐに美味いモン買ってく
       るよ。すぐにだ」
          ──そう言って再びたけしを抱き締める正樹。
  たけしの声「こうして僕は8年の眠りから目を覚ました」

◇ ある墓地
          墓前に手を合わせているたけし。
          その横に立っている正樹。
          墓参を済ませ立ち上がるたけし。
  正樹   「本当は離婚してるからな、父さんが母さんの‥‥君の母さん
       の墓参りなんてな、しちゃいけないと思うんだけど」
  たけし  「そんなことないでしょ」
  正樹   「まぁ、たけしの全快報告だ。許してくれるだろ」
  たけし  「‥‥でも、何だか変な感じだ」
  正樹   「何が?」
  たけし  「だってさ、僕にとってはお父さんとお母さんが離婚したのは
       つい一か月ほど前のことなんだよ。それが、お母さんが死んで
       もう3年も経ってるなんてさ」
  正樹   「そうかな‥‥」
  たけし  「そうだよ」
  正樹   「‥‥そうだな」
  たけし  「何だか‥‥」
  正樹   「何だかなんだ?」
  たけし  「何て言うか‥‥」
  正樹   「夢のようか?」
          頷くたけし。

◇ ××中学校・校庭
          誰もいない校庭の真ん中に立っているたけし。
          たけし、懐かしむように辺りを見回している。
  たけしの声「父に頷いてすぐ僕はこれが現実なんだと思い知った。だけど、
       その現実を実感した途端、カッちゃんのことや、中学校時代に
       あった全ての出来事が夢のように感じた。事故に遭い眠ってい
       る間、僕は、長い長い夢を見ていたのだろうか?」
          一陣の風がたけしの頬を撫でる。
          ふと足下を見るたけし。
          足下には、銀杏の葉を纏った蓑虫が動いている。
  たけしの声「夢みたいな現実。現実みたいな嘘。嘘みたいな記憶。いつだ
       って、真実に境界線はなく曖昧だ。でも、一つだけハッキリし
       ていることがある。それは‥‥」
          たけし、面を上げ大きく深呼吸をして空に向かい。──
  たけし  「(大きな声で)みんなー、元気かぁー!」
          たけしの声が誰もいない校庭にこだまする。
  たけし  「(更に大きな声で)元気にしてるかぁー!!」

◇ 同・屋上
          縁に立った中学生のたけしたちが下を覗き込んでいる。
  克夫   「何か言ってるぞ」
  たけし  「シカト、シカト」
          小島が校庭で屋上に向かって何かを叫んでいるがよく聞
          こえない。
          たけしたち、危うい足取りで縁を歩き始める。
  たけし  「カッちゃん、ぜってぇ押さないでよ」
  克夫   「なーに、ビビってんだよぉ」
  たけし  「ざっけんなってーの!」
          やいのやいの言いながら縁を歩き続けるたけし、克夫、
          健吾、敏之、宏明。
          そこに、「あーっ!」と叫ぶ声が聞こえて驚きよろけるた
          けし。
  たけし  「ざっけんじゃねぇ!落ちちゃうじゃねぇか!!」
          五人から少し離れたところでガムテープで全身をぐるぐ
          る巻きにされ立っていた邦正が空を指し。──
  邦正   「UFO‥‥」
  たけし  「えっ!?」
          たけしたち五人、一斉に邦正が指した空を見るが。──
          そこにあるのは青い空とポッカリ浮かぶ雲だけ。
  克夫   「テメェ、フカシて(嘘ついて)んじゃねぇよ!」
          たけしたち、柵を乗り越え邦正のもとへ駆け寄る。
          あとには空だけが残される。
  たけしの声「‥‥それは、僕は、いつだって今を生きているということだ」
          空の片隅、小さくUFO(?)が見えてすぐ消える。


                ── 了 ──

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2008-11-30

シナリオ 存在の深き眠り 9

◇ 街の風景の点描

◇ たけしの家・表
          2トントラックに荷物を積み込んでいる加藤(28)と杉山
          (25)。

◇ 同・リビングダイニング
          段ボール箱に入れられた荷物が点在している。
          努めて平静を装いいつもと変わらぬ調子でテレビゲーム
          をしているたけし。
          加藤、来て段ボールを持ち上げると。──
  加藤   「(奥に向かって)課長!これもトラックに積んじゃっていいんで
       すかぁ!?」
          正樹、奥から顔を出し。──
  正樹   「ああ、それかぁ‥‥頼む!」
  加藤   「はい!」
          加藤、チラッとたけしを気にしてから荷物を運び出す。
          加藤と入れ替わりに来た杉山、荷物を持つとふとたけし
          の横で足を止め。──
  杉山   「君も大変だな、これから」
  たけし  「(チラッとこなしただけで)別に‥‥」
          苦笑いを浮かべ行く杉山。
          たけしの携帯電話が鳴る。
          番号は非通知になっている。
  たけし  「?」
          たけし、「はい」と電話に出るがすぐに切れてしまう。
  たけし  「??」

◇ ××中学校・廊下
          人気がなく静まり返った片隅に携帯電話を持った克夫が
          いる。
  克夫   「‥‥」
          克夫、携帯電話をポケット入れると静寂を縫うように歩
          く。

◇ たけしの家・表
          加藤と杉山が乗り込んだトラックの横に立っている正樹。
  加藤   「じゃぁ、先に行ってますから」
  正樹   「悪いな。変なこと頼んじゃって」
  加藤   「気にしないで下さいよ」
  正樹   「ホント、すまない」
  杉山   「じゃ、課長、荷物下ろしときますんで」
  正樹   「頼む」
          軽く挨拶をしてからトラックを走らせる杉山。
          正樹、見送ってから家に入って行く。

◇ ××中学校・屋上
          克夫、縁を歩いている。
          歩く、歩く、歩く克夫。
          克夫、何の前触れもなく突然飛び下りる。

◇ たけしの家・リビングダイニング
          ピザを食べているたけしと正樹。
  正樹   「たけしと最後の晩餐がピザとはな‥‥」
  たけし  「おいしいよ」
  正樹   「そうだな」
          黙々と食べる二人。
          間。
  正樹   「‥‥お母さんと一緒でいいのか?」
  たけし  「お母さん、女だからね」
  正樹   「そうか‥‥」
  たけし  「あの‥‥」        
  正樹   「何だ?」
  たけし  「(首を横に振って)なんでもない」
  正樹   「‥‥そうか」
  たけし  「一生会えなくなるわけじゃないじゃん」
  正樹   「(苦笑して)まぁな、そうだけどな」
  たけし  「そうだよ」
  正樹   「でもなぁ、違うんだよなぁ」
  たけし  「そうかな?」
  正樹   「あーあ、何でこんなことになっちゃったんだかなぁ」
  たけし  「こっちが聞きたいよ」
  正樹   「一生懸命に働いてただけだったのになぁ」
  たけし  「‥‥」
  正樹   「この家だってな、お母さんを喜ばせようと思って無理したん
       だ」
  たけし  「知らないよ」
  正樹   「(独り言のように)それがなぁ‥‥どこでどうすれ違ったかな
       ぁ」
  たけし  「‥‥」
  正樹   「‥‥たけし」
  たけし  「何?」
  正樹   「父さん、よく分からないんだ」
  たけし  「何が?」
  正樹   「‥‥人は何のために生きてるんだ?」
          正樹、突然、込み上げてくるものを押さえ切れず口元を
          押さえるとたけしの目も気にせずに嗚咽を漏らす。

◇ 同・表(夕)
          出て来るたけしと正樹。
  正樹   「(立ち止まり)ここでいいよ」
  たけし  「でも‥‥」
  正樹   「恥ずかしい」
  たけし  「そう?」
  正樹   「‥‥お母さんは今日も遅いのかな?」
  たけし  「さぁ‥‥」
  正樹   「じゃぁな、元気でな」
  たけし  「うん」
          力のない笑みを浮かべると踵を返し行く正樹。
          トボトボと歩く正樹の後姿を見つめるたけし。
  たけし  「お父さん!」
          正樹、振り返らずに軽く手を挙げるだけ。
  たけし  「‥‥」

◇ 同・リビングダイニング(夕)
          薄暗い室内にたけしの携帯電話が鳴っている。

◇ ある寺・境内(夜)
          克夫の葬儀が営まれている。
          しめやかに続く学生たちの葬列の中にいるたけし。
          亜梨沙とみゆき、すすり泣き焼香をしている。
          亜梨沙、焼香を終えると全身の力が抜けてしまい、みゆ
          きに抱えられるようにしてその場を辞す。
          焼香はたけしの順番になる。
          祭壇の前に座っている親族たちに一礼するたけし。
  たけし  「?」
          たけし、会葬者から一番近い席に座っている中年男(克夫
          の父・雄二・45)に目がいく。
          雄二は、妙に落ち着きがなく貧乏揺すりをしていたかと
          思ったら、時計を見たり会葬者にお愛想の笑みを浮かべ
          たりして、明かに不自然で挙動不審。
          たけし、それが気になるが焼香を終わらせる。
          雄二、たけしが焼香を終えると同時に読経が続いている
          というのに席を立ち式場を出ていく。

◇ 同・受付(夜)
          香典の額を確かめている会計係男女二人のところへくる
          雄二。
  会計係男 「まだお式中じゃ‥‥」
  雄二   「(遮って)いくら集まってる?」
  会計係女 「まだちょっと‥‥」
  雄二   「貸せ!」
          雄二、計算途中の香典を強引に奪い取り札の枚数を数え
          始める。
  雄二   「ンだよ、たったこれだけか。ふざけんな。お前らちょろまか
       してないだろうな!?」
  会計係男 「とんでもない!」
  雄二   「フンッ!まあいい」
          唾を吐き金を持ってその場を後にする雄二。
          会計係の男女、呆れて顔を見合わせる。

◇ 同・人気のない場所(夜)
          人相の悪い男二人に卑屈な調子で金を渡している雄二。
  人相の悪い男A「55万ね‥‥ガキの葬式だとたいして香典集まんねぇな」
  雄二   「今月はこれでなんとか‥‥」   
  人相の悪い男A「しようがねぇな。で、おっさんよぉ、来月はどうやって
       返済するんだ?」
  雄二   「それはまた考えますから‥‥」
  人相の悪い男B「保険かけとけば良かったな、ガキにさ」
  雄二   「ホント、そうですよね。でも、まさか死ぬなんて思ってなか
       ったもんですから」
  人相の悪い男A「そりゃ、そうだ。ま、次はおっさんが自殺するか?保険
       かけてよ!」
  雄二   「アハハハ、ご冗談を!」
          人相の悪い男B、雄二の肩を抱え込み。──
  人相の悪い男B「(ニヤけて)ま、これがまんざら冗談でもないんだけどな
       ぁ」
  人相の悪い男A「残金1682万。どうやって返してもらえるか楽しみにし
       てるよ(人相の悪い男Bに)行くぞ」
          人相の悪い男B、雄二を突き放す。
          その拍子にその場に尻餅をつく雄二。
  人相の悪い男B「いつでも相談にのるからね。じゃっ!」
          その場を去る人相の悪い男AとB。
          雄二、その後姿を見送ってから乾いた笑いをこぼし立ち
          上がろうとしたところに。──
       「おじさん‥‥」
          ──と、声がかかるので必要以上に驚いて再び尻餅をつ
          く。
          声をかけたのは、たけし。
  たけし  「‥‥(遠慮がちに)カッちゃんのお父さん?」
  雄二   「な、何だ!?子供か!?驚かすんじゃねぇ!」
          立ち上がり体裁を繕う雄二。
  たけし  「すいません‥‥あの、僕、カッちゃんの友達で中原っていい
       ます」
  雄二   「(適当な感じで)ああ、そりゃどうも‥‥今日は来てくれてあ
       りがとね」
          雄二、その場を去ろうとする。
  たけし  「あの‥‥」
  雄二   「何だよ。まだ葬式の途中なんだから」
  たけし  「すいません。でも‥‥」
  雄二   「だからぁ、何だって言うんだよ」
  たけし  「カッちゃんは何で自殺なんかしたんですか?」
  雄二   「は?」
  たけし  「どうして自殺なんかしたんだと思いますか?」
  雄二   「知るか!?」
  たけし  「でも、お父さんなら何か心当たりがあるじゃないかと思って
       ‥‥」
  雄二   「何だ!?このガキは!!」
  たけし  「さっきのお金‥‥借金ですか?」
  雄二   「お前、俺が克夫を殺したとでも言うのか!?ああ!!?」
  たけし  「そんなこと言ってません!僕はただ‥‥」
          雄二、まるで威嚇するかのようにたけしににじり寄る。
  雄二   「あのガキはな、勝手に死んだんだ!飛び下りてな!!」
  たけし  「だから!」
  雄二   「うるせーっ!!」
          雄二、叫ぶなりたけしをはり倒す。
  雄二   「お前らガキに何が分かる!?えっ!?」
          雄二、たけしの横っ腹を蹴る。
  雄二   「いつだって涼しい目つきしやがって!いつだって自分が全部正
       しいようなツラしやがって!」
          たけし、雄二の足にすがりつきとめようとする。
  たけし  「やめて下さい!」
  雄二   「離せっ!」
          食い下がるたけしを必死になって振り払おうとする雄二。
  たけし  「やめて‥‥やめろー!!」
  雄二   「クソッ!!こんなことならアイツらが言うように克夫に保険か
       けておくんだったよ!!クソッ!!」
          たけしを振り切った雄二は勢いそのままたけしに暴行を
          続ける。
          そこに、騒ぎを聞き付けた小島がやってきて。──
  小島   「ちょっ、ちょっと、お父さん!!峰岸さん!」
          小島、言いながらとめようとするが、雄二は小島にさえ
          拳を振るう。
  雄二   「センコウもグルかっ!?上等だ!来いっ!!」
          防戦一方の小島に、滅茶苦茶に身体を動かし暴力を加え
          る雄二。
  小島   「だ、誰か!警察!!警察を呼んで下さい!!」
          騒ぎはあっという間に大きくなり、いつの間にかたけし
          は蚊帳の外に置かれる。
          たけし、気をしっかりさせようと首を振る。
          次の瞬間、全ての音が消える。
          そして。──
          錯覚。
          時間がゆっくりと流れていく。
          目の前で繰り広げられている光景を信じられないたけし。
  たけし  「‥‥」
          たけしの中で何かが動く。
          たけし、大きく口を開け。──叫ぶ。
          ──が、その叫びは声にならない。

(つづく)

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2008-11-29

シナリオ 存在の深き眠り 8

◇ ××中学校・2年3組の教室
          放課後、掃除の時間。
          軽い調子で邦正をからかって遊んでいる克夫、敏之たち。
          たけし、その様子を見ないようにして掃除をしている。

◇ 同・屋上
          空が高い。
          ぽつんと一人座っているたけし。
  たけし  「‥‥」
          騒々しい声が聞こえてきてガムテープで身体をグルグル
          巻きにされた邦正を連れた克夫たちがやってくる。
  敏之   「あっ!嫌なヤツがいるよ」
  宏明   「どうする?」
  敏之   「行こ、行こ。すぐキレっからさぁ、アイツ」
  健吾   「怖ぇー」
  宏明   「(邦正を)コイツ、どうする?」
  克夫   「もう、いいよ。何だかシラけた」
  敏之   「そうだね。放っておこうか」
  健吾   「放置プレイ?」
          笑う克夫たち一同。
  たけし  「‥‥」
          克夫たち、邦正を残し去る。
          たけしと邦正二人きり、何をするでもなく立ち尽くす。                
          たけし、チラッと邦正を見る。 
          視線が合い微笑む邦正。
          たけし、慌てて視線をそらす。 
          間。
          たけし、この間を持て余しわざと邦正を無視するような
          態度で屋上の縁に立つ。
          邦正、ニコニコしてその様子を見ている。
          たけし、眼下を見る。
          吸い込まれそうになる。
          その気分を振払うように小さく深呼吸をすると縁を歩き
          始めるたけし。
  邦正   「‥‥」
          歩くたけし。
  邦正   「ねぇ!」
  たけし  「うわっ!!」
          たけし、驚き慌てて手すりに掴まる。

◇ ある家・玄関内(夕)
          幾匹もの猫が我が物顔で歩いている。
          ドアが開き邦正が姿を見せる。
  邦正   「ただいまー」
          邦正の後ろで遠慮がちに立っているたけし。
  邦正   「どうぞ‥‥(笑い)猫ばっかりだけど」
  たけし  「うん‥‥」
          足下に一匹の猫がすり寄って来たので、一瞬驚き身をす
          くめるたけし。
          邦正、その猫を抱き上げ。──
  邦正   「猫、嫌い?」
  たけし  「別に‥‥大丈夫だよ」
  邦正   「良かった‥‥あがってよ、お茶くらい出すから」
  たけし  「(ぎこちなく)ありがとう」
          邦正に続き家に入って行くたけし。

◇ 同・リビング(夕)
          たくさんの猫に囲まれて居心地悪そうに座っているたけ
          し。
          缶ジュースを二本持ってくる邦正。
  邦正   「お母さん、ちょっと買い物に行ってるみたいだから。何にも
       なくて‥‥こんなんでいい?」
  たけし  「あ、別に‥‥気、使わないで」
          邦正、テーブルの上に缶ジュースを置きたけしの向かい
          側に座る。
  たけし  「あの‥‥」
  邦正   「(ニコニコして)何?」
  たけし  「いや‥‥何でもない」              
  邦正   「そう‥‥」
          ニコニコするばかりの邦正にどうしていいか分からない
          たけし。
          ぎこちない間。
          たけしと邦正、同時に「あの‥‥」と言って、互いに先
          を譲り合う。
  邦正   「どうぞ、中原君から」
  たけし  「松本から先言えよ」
  邦正   「いいよ、中原君から‥‥」
          ──と、邦正の言葉を遮るように隣の部屋からうめき声
          のようなものが聞こえてくる。
  邦正   「あ、ちょっと待ってて」
  たけし  「うん‥‥」
          邦正、中座すると隣の部屋へ行く。
  たけし  「‥‥」
          隣の部屋が気になり覗くたけし。
          隣の部屋では、邦正がベッドに横たわった脳性麻痺の
          兄・晴彦(16)に水を飲ませている。
  たけし  「‥‥」
          邦正、気配に気付き振り向く。
  邦正   「(たけしに)兄さん」
  たけし  「あ、どうも‥‥こんちは」
  邦正   「(晴彦に)兄さん、友達。中原たけし君」
          晴彦、特に反応しない。
  邦正   「(たけしに)兄さん、こんにちは、って言ってる」
          たけし、どう反応していいかよく分からず小さく頭を下
          げるだけ。

◇ 同・邦正の部屋(夕)
          邦正の案内で部屋に入ってくるたけし。
  邦正   「好きなとこ座って」
          たけし、返事をするものの上の空で物珍しげに部屋の中
          を見回す。
  邦正   「別に‥‥普通の部屋だよ」
          壁に貼ってあるB'sのポスターに目がいくたけし。
  たけし  「へェー、B's、好きなんだ?」
  邦正   「中原君も?」
  たけし  「うん」
  邦正   「カッコいいよね」
  たけし  「うん」
          たけし、机の上に何かを見つける。
  たけし  「これ‥‥松本が描いたの?」
          ──と、たけしが手にしたのは漫画の原稿。
  邦正   「うん‥‥恥ずかしいよ」
  たけし  「そんなことないよ。うまいじゃん」
  邦正   「まだまだだよ」
          たけし、ただただ感心しながら漫画の原稿に見入る。

◇ 同・玄関(夜)
          靴を履いている邦正。
  邦正   「(奥に向かって)ちょっとそこまで送ってくるから!」
          たけし、「いいよ、別に送ってもらわなくても‥‥」と
          言っているところに邦正の母・邦枝(39)が姿を見せる。
  邦枝   「お構いしなくてご免なさいねー、中原君、だったけ?」
  たけし  「はい」
  邦枝   「晩ご飯食べてったらいいのに」   
  たけし  「ウチで母が作って待ってますから」
  邦枝   「そうか‥‥そうよね。それじゃ悪いわね」
  たけし  「すいません」
  邦枝   「なに謝ってんの!じゃぁ、今度ね、今度はゆっくりご飯食べに
       来てね」
  たけし  「はい」
  邦枝   「なんだか私、はしゃいでる?」
  邦正   「そうだよ。恥ずかしいよ」
  邦枝   「だって、あなたが友達を連れてくるなんて初めてじゃない」
  邦正   「じゃぁね、行こう。中原君」
          邦正、たけしを促す。
  邦枝   「照れちゃって!」
  邦正   「もう‥‥」
          奥の方から晴彦のうめき声が聞こえる。
  邦正   「ほら、兄さんが呼んでる」
  邦枝   「はいはい(たけしに)じゃぁ、本当にね、また来てね」
  たけし  「はい」
          微笑みを残し奥の部屋へ行く邦枝を見送るたけし。
  邦正   「行こ」
  たけし  「うん」

◇ 商店街(夜)
          軒を連ねる店はほとんどが閉店していて明かりもまばら。
          肩を並べて歩くたけしと邦正。
  たけし  「お前‥‥アニキが何言ってるか分かるの?」
  邦正   「全然分かんない」
  たけし  「は?」  
  邦正   「でもね、何をしたいのかは何となく分かる」
  たけし  「どういうこと?」
  邦正   「うーん‥‥例えばね、テレビ」
  たけし  「テレビ?」
  邦正   「そう、テレビ。兄さんはね、タモリが嫌いなの」
  たけし  「‥‥」
  邦正   「テレビにタモリが出てると鼻息が荒くなる。それでね、チャ
       ンネルを変えるでしょ、そこにみのもんたが出てるとその鼻息
       がおさまるの。穏やかになる。みのもんたが好きなんだよ」
  たけし  「みの好き!?変わってんな」
  邦正   「(笑い)おばさんみたいでしょ」
  たけし  「まあ‥‥何ていうか」
  邦正   「兄さんは面白いよ」
  たけし  「面白いって‥‥」
  邦正   「兄さんはね、喋れない」
  たけし  「‥‥」
  邦正   「嫌なことがあったりすると緊張して筋肉が硬直しちゃうん
       だ」
  たけし  「はぁ‥‥」
  邦正   「自分の身体をコントロール出来ないんだよ」
  たけし  「そりゃ‥‥大変だろ」
  邦正   「放っておけばずっと何時間でも筋肉を硬直させたままにして
       る」
  たけし  「‥‥」
  邦正   「それってどういうことか分かる?」
          たけし、自分の腕に力を入れてみて。──
  たけし  「ちょっと‥‥全然分からない」
  邦正   「血がね、止まっちゃうんだ。通わなくなっちゃう」
  たけし  「そうなの?」
  邦正   「(頷いて)だからね、ちゃんと見ててやんなきゃ死んじゃう」
  たけし  「マジかよ!?」
  邦正   「マジ」
  たけし  「漫画なんか描いてていいのかよ!?」
  邦正   「(笑い)それはまた別だよ。お母さんだっているし‥‥お父さ
       んだって仕事から帰ってくれば見ないフリしててもちゃんと兄
       さんのことは気にしてる」
  たけし  「ま、そっか」
  邦正   「‥‥兄さんを見てると色々なことを考える」
  たけし  「そりゃぁな‥‥だろうな」
  邦正   「今中原君何考えた?」  
  たけし  「えっ?何って‥‥」
  邦正   「何考えた?」
  たけし  「‥‥兄さんの将来はどうなっちゃうんだろうとか、大変だな
       ぁ‥‥とか、そんなこと」
  邦正   「やっぱりね」
  たけし  「違う?」
  邦正   「違うよ」
  たけし  「違うの?」
  邦正   「何て言ったらいいんだろう‥‥そうだな、兄さんは想像力を
       与えてくれる、僕に」
  たけし  「想像力?」
  邦正   「うまく言えないけど‥‥だから優しくなれる」
  たけし  「‥‥」
  邦正   「人が嫌がることをしちゃいけないんだって気になる」
          たけし、うつむく。
  邦正   「やっぱり、うまく言えない」
          邦正、たけしの様子に気付き。──
  邦正   「‥‥ご免ね。そんなつもりじゃなかったんだけど」
          たけし、立ち止まる。
  邦正   「中原君?」
  たけし  「‥‥なぁ、松本」
  邦正   「何?」
  たけし  「どうしたら俺、優しくなれる?」

◇ あるケーキ屋・店内(夜)
          ポケットから金を出すたけし。
          有り金、870円。
  たけし  「‥‥」
  店員   「お使い?」
  たけし  「いえ‥‥あの‥‥」

◇ たけしの家・リビングダイニング(夜)
          既に瑞穂のサインと判子の押してある離婚届に判子を押
          している正樹。
          その様子を冷ややかに見ている瑞穂。
  瑞穂   「(離婚届を手にして)これは私が明日役所に出しておく」
  正樹   「ああ‥‥頼む」
  瑞穂   「荷物は?」
  正樹   「今度の日曜日会社の後輩が手伝いに来てくれる」
  瑞穂   「そう‥‥」 
  正樹   「それで全部運び出すから」
  瑞穂   「お願いします」
  正樹   「‥‥たけし、遅いな」
  瑞穂   「どうせ友達と遊び歩いてるんでしょ」
  正樹   「心配じゃないのか?」
  瑞穂   「心配よ。だけど年頃の男の子よ、多少大目に見なくちゃ」
  正樹   「‥‥」
  瑞穂   「今更‥‥心配してる振りなんかして」
  正樹   「‥‥‥腹減ったな」
  瑞穂   「何も作ってないわよ」
  正樹   「店屋物でもとるか?」
  瑞穂   「好きにして。私はいらない」
          正樹が電話をしようと立った時、玄関のドアが開く音が
          して、ケーキの入った箱を持ったたけしがモソッと姿を
          見せる。
  たけし  「‥‥ただいま」
  瑞穂   「ちょうどいい時に帰って来たわ。たけし‥‥」
  たけし  「何?」
  瑞穂   「決めた?」
  たけし  「‥‥」
  瑞穂   「たけし、聞いてる?」
          たけし、それには答えずケーキの入った箱を瑞穂に差し
          出す。
  瑞穂   「何?」
  たけし  「ケーキ」
  瑞穂   「ケーキ?!何で?」
  たけし  「‥‥みんなで食べようと思って」
  正樹   「ケーキか‥‥俺、甘いものはなぁ」
  瑞穂   「(正樹をチラッとこなして)そんなの後でいいから、返事聞か
       せて」
  たけし  「食べようよ、ケーキ」
  正樹   「たまにはいいかな?」
  瑞穂   「たけし!」
  たけし  「じゃぁ、僕、紅茶入れるね」
  瑞穂   「ちょっと!!」
          たけし、瑞穂の言葉には耳を貸さず紅茶を入れる仕度を
          始める。
  正樹   「お父さんも手伝うか?」
  たけし  「いいよ、僕がやるから。座ってて」
  正樹   「そうか?」
  たけし  「うん」
          正樹、座り所在なげに取り敢えず新聞を広げてみる。
  瑞穂   「‥‥」     
          瑞穂、興奮を抑えた様子でたけしに近付く。
  たけし  「何?」
  瑞穂   「お母さんとお父さんは離婚するのよ。あなた、平気なの?」
  たけし  「お母さんも座っててよ。すぐに紅茶入れるから」
  瑞穂   「!?」
          瑞穂、テーブルの上に置いてあったケーキの入った箱を
          手にすると床に叩き付ける。
  正樹   「何するんだ!?」
  瑞穂   「今更家族ごっこはやめてよ!!」
  正樹   「だからって‥‥」
  たけし  「あーあ‥‥」
          たけし、つぶれたケーキの箱を拾う。
  たけし  「どうしよう」
          瑞穂、たけしの肩を鷲掴みにして。──
  瑞穂   「答えなさいよ!!」
  たけし  「しようがないから紅茶だけにするね。ケーキは明日また買っ
       てくる」
  瑞穂   「答えなさい!!」
  たけし  「(ニコッと笑い)お母さんもお父さんもチーズケーキが好きだ
       ったよね」
          瑞穂、間髪を入れずたけしに平手打ち。

(つづく)

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2008-11-28

シナリオ 存在の深き眠り 7

◇ 住宅街の道(夜)
          肩を落としてトボトボと歩くたけしの後姿。

◇ たけしの家・表(夜)
          たけし、門扉の前まで来て入ろうかどうしようか躊躇し
          ていると中から正樹と瑞穂が怒鳴り合う声が聞こえてく
          る。
  正樹の声 「何が不満なんだ!?」
  瑞穂の声 「何で分からないの!?」
  正樹の声 「俺は十分にしてやってるだろ?」
  瑞穂の声 「そういう態度が嫌なのよ!」
          ガラスの割れる音、小さく瑞穂の悲鳴が聞こえ、正樹の
          怒鳴り声は続く。
  たけし  「‥‥」
          踵を返し家の前から離れていくたけし。

◇ ある雑居ビル(朝)・表
          入居テナントの少ない新しいビル。
          雨が降っている。

◇ 同・最上階の階段踊り場(朝)
          隅の方で段ボールにくるまって眠っているたけし。

◇ あるコンビニエンスストアー・裏口付近(朝)
          雨でずぶ濡れになって賞味期限の切れた食品を漁ってい
          るホームレスの男。
          たけし、段ボールを傘代わりに一旦はその横を通り過ぎ
          るが、ふと足を止めてホームレスの男を見つめる。
  たけし  「‥‥」 

◇ たけしの家・リビングダイニング(朝)
          荒れたままになっている室内に立ち尽くすたけし。
  たけし  「‥‥」
          窓を伝う雨の雫がたけしの頬に影を落とし、それが、ま
          るで涙のように見える。 

◇ 運河ぞいの通学路(朝)
          通学途中の傘をさした大勢の学生たち。
          浮かない表情で歩いているたけし。
  たけし  「(何かを見て)!」
          たけしの視線の先には亜梨沙。
          亜梨沙、たけしと視線が合った途端にそらし早足になる。
    
◇ ××中学校・2年3組の教室
          窓外には雨まだ降り続く。
          始業前。
          敏之を中心に無駄話に興じる宏明と健吾。
          自席で頬杖をつき窓外を見るともなしに眺めているたけ
          し。
          克夫、来る。
  たけし  「(克夫に気付き)‥‥」
          克夫の動きを目で追うたけし。
          克夫、昨夜のことなどなかったかのようにいつも通りで
          自然と敏之たちの話の輪に加わる。
          たけし、そろそろと敏之たちに近付く。
  たけし  「カッちゃん‥‥」
          克夫、明らかに聞こえているが無視する。
  敏之   「?カッちゃん、タケが‥‥」
  克夫   「ンっ、ああ‥‥」
  たけし  「昨日は‥‥」
  克夫   「(遮って)ああ、そうだ!新しいファイナルファンタジーやっ
       た?」
  宏明   「えっ!?買ったの?」
  克夫   「当然!」
  健吾   「めちゃハマるって、アレ。スッゲー、グラフィックスが綺麗」
  敏之   「カッちゃんってば‥‥」
  克夫   「今度村野にも貸してやるよ」
  敏之   「うん‥‥」
  克夫   「あれっ!?貸して欲しくない?」
  敏之   「そうじゃないけど‥‥」
  克夫   「じゃ、明日持ってくるから」
          「次、俺貸して」「俺だよ」「ジャンケンしろよ」とゲー
          ムの話に盛り上がる克夫、宏明と健吾たちの会話に加わ
          っているものの、いまいち釈然としない敏之。
          敏之、ふとたけしを見る。
          たけし、目を合わすことなく敏之の視線を避けるように
          すごすごと自席に戻っていく。

◇ 同・体育館内の用具倉庫
          たけしと敏之がいる。
  たけし  「別に‥‥」
  敏之   「どう考えたっておかしいべ」
  たけし  「そんなことないよ」
  敏之   「大体アイツえばり過ぎだし」
  たけし  「‥‥何が言いたいんだよ」
  敏之   「タケだって本当はアイツのこと嫌いなんだろ?」
  たけし  「知らねぇよ」
  敏之   「なぁ、二人で組まねぇ?」
  たけし  「何のことだよ?」
  敏之   「アイツ、ハブ(仲間外れ)にしてやんねぇ?」
  たけし  「‥‥俺、帰るよ」
  敏之   「沢渡だって深草だってさ、ホントはあいつのこと嫌いなんだ。
       ぜってぇ、この話にノるって。だからさ‥‥」        
  たけし  「俺には関係ない」
  敏之   「裏切るのかよ」
  たけし  「裏切る?」
  敏之   「そうだよ。俺が腹割って話してるのにその態度はないだろ」
  たけし  「そっちが勝手に喋ったんだろ」
  敏之   「ざっけんなよ!」
  たけし  「ふざけてなんかないよ」
  敏之   「どうせここから出たらアイツにチクるんだろ?」
  たけし  「そんなことしねぇよ」
          敏之、その辺にあった棒を手にするとそれで思い切り壁
          を叩く。
  たけし  「!」
  敏之   「約束しろ」
  たけし  「分かったよ。分かったからそれやめろよ」
  敏之   「信用できねぇ」
  たけし  「信用しろよ」   
  敏之   「じゃあ、土下座しろ」
  たけし  「ざっけんな!」
  敏之   「じゃあ、信じねぇぞ」
  たけし  「‥‥」
  敏之   「どうする?」
  たけし  「‥‥」
  敏之   「タケ、お前あの時蔑んだ目で俺を見てたろ?」
  たけし  「あの時?」
  敏之   「俺がアイツに松本のシコらされた時だよ」
  たけし  「みんな笑ってたじゃないか」
  敏之   「違う。お前とアイツは俺をバカにしてた」
  たけし  「そんなことないよ」
  敏之   「ざっけんなつーの!」
  たけし  「‥‥悪かったよ」
  敏之   「だから土下座しろって!」
  たけし  「‥‥」
          たけし、もったりした動作で敏之の前に膝まづき土下座
          する。
  たけし  「悪かった。信用してくれ」
          そのままの体勢で返事を待つたけし。
          しかし、返事の代わりにたけしの後頭部に生暖かい液体
          がかけられる。
  たけし  「な!」
          驚いて顔を上げたたけしが見たのは。──小便をしてい
          る敏之。
          たけしの後頭部にかけられたのは敏之の小便。
  敏之   「これから俺に逆らうな」
  たけし  「!」
  敏之   「お前なんて所詮アイツの金魚のフンなんだからさ」
  たけし  「!!」
          たけし、我慢の限界。──キレる。
  たけし  「ざっけんじゃねぇ!!」
          たけし、勢い敏之に殴り掛かる。
          不意をつかれた敏之はあっけなく倒れる。
          たけし、そのまま敏之に馬乗りになって更に拳を振るう。
          たけし、敏之の顔面を殴る。
          殴る。
          敏之に抵抗する隙を与えず容赦なく殴る。

◇ 同・生徒指導室(夕)
          体操着に着替えたたけしが困った顔で腕組みをしている
          小島の前に座っている。           
          間。
          部屋外に誰かが来た気配がしたところで、すぐにドアが
          開き、武井に案内されてきた瑞穂が姿を見せる。
  小島   「(立ち上がり)お母さん、どうもわざわざ‥‥」
          ──と、小島が言いかけたところで挨拶もそこそこにた
          けしに歩み寄りいきなり頬に平手打ちをする瑞穂。
  瑞穂   「あんたは!何やってんの、もう!!」
          瑞穂、そのまま平手やら拳やらで滅茶苦茶にたけしを叩
          く。
  小島   「ちょっ、ちょっと‥‥お母さん、冷静に!」
          瑞穂、小島の声など耳に入ってない。
          腕で頭を抱え防御するばかりのたけし。
  瑞穂   「どいつもこいつもロクデナシなんだから!」
  小島   「えっ!?」
          小島、ふと瑞穂をとめるのをやめ。──
  小島   「(小さな声で)はい‥‥すいません」

◇ たけしの家・リビングダイニング(夜)
          電灯も点けずにダイニングテーブルで頭を抱えている瑞
          穂。
          少し離れたところのソファーで瑞穂に背中を向けうつむ
          き加減で座っているたけし。
          瑞穂、天を仰ぎ大きなため息をつくとたけしの背中を
          見る。
  瑞穂   「‥‥お父さんそっくり」
          たけし、答えない。
  瑞穂   「その背中。格好」
  たけし  「‥‥」
  瑞穂   「嫌だ、嫌だ」
          瑞穂、もう一度ため息をつくと吹っ切れたかのように、
          食器棚からカップ麺を出しテーブルに置く。
  瑞穂   「お母さん、これからお店に行かなくちゃならないから」
  たけし  「‥‥」
  瑞穂   「聞いてる?」
  たけし  「‥‥聞いてる」
  瑞穂   「カップ麺で悪いけど、これ食べててね」
  たけし  「‥‥」
          瑞穂、部屋から出て行こうとしてふと足を止め、たけし
          の後姿を見る。
  瑞穂   「たけし‥‥ちょうどいい機会だから言っておくわ」
  たけし  「‥‥」
  瑞穂   「返事したくないなら別にいいけど‥‥」
  たけし  「‥‥」          
  瑞穂   「お母さん、お父さんと離婚するから」
          たけし、ふと面を上げる。
  瑞穂   「もう決まったから」
  たけし  「えっ!?」
  瑞穂   「あなたも、もう子供じゃないんだから‥‥お父さんと一緒暮
       らすか、お母さんとにするか、あなたが選んでいいから」
          たけし、振り向き瑞穂を見る。
  瑞穂   「一か月後にお父さんがこの家を出ていくから」
  たけし  「ちょっ、急に‥‥」
  瑞穂   「決めといてね」
          踵を返し姿を消す瑞穂。
  たけし  「‥‥」

(つづく)

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2008-11-27

シナリオ 存在の深き眠り 6

◇ あるスーパーマーケット・内(夕)
          主婦に混じって学生服姿のたけしと克夫がショッピング
          カートを押している。
  たけし  「本当に作れんの?チンジョーロースなんて」
  克夫   「任せろ。俺様、フランス仕込みの一流シェフよ!」
  たけし  「あのぉ‥‥チンジョーロースって中華なんですけど」
  克夫   「細けぇな、タケは!一つ一流なら全てにおいて一流なのよ。分
       かってないなぁ、チミは!」
  たけし  「何それ!?意味不明」
          克夫、鼻歌まじりに手当たり次第食材をカートに放り込
          む。
          ひとりごちるたけし。

◇ たけしの家・リビングダイニング(夜)
          克夫がテレビゲームをする横で料理しているたけし。
  克夫   「ゲーム、古すぎ。早くプレステ2買ってもらえよ」
  たけし  「話しかけるなよ!」
  克夫   「せいぜい頑張ってくれ」
  たけし  「大体何でこうなるわけ?」
  克夫   「細けぇっての!」
          テレビゲームをやめる克夫。
  克夫   「一流は全て弟子にやらせるのよ」
  たけし  「何それ!?」
  克夫   「ピーマン切ったじゃん!俺」
  たけし  「っていうか、そういうのアリ?」
  克夫   「あり、あり!」
          克夫、たけしの背後に立ち料理をする様を観察。
  克夫   「塩多くねぇか?」 
  たけし  「あー、うざい!!」
  克夫   「(笑って)何かすることねぇ?」
  たけし  「(少しイライラして)もーう、じゃ、じゃぁ、皿、皿とって。
       もう出来るから」
  克夫   「一流シェフに皿を用意させるとは生意気な!」
  たけし  「言ってれば!?」
  克夫   「(笑って)言う、言う!」
          テーブルの上にあった皿をたけしに渡す克夫。
          たけし、慣れない手つきで中華鍋の中身を皿に移す。
  克夫   「見た目はうまそうだな」
          言うや克夫、つまみ食いをするが、すぐさましかめっ面
          になり情けない顔でたけしを見る。
  たけし  「マジ!?」
          克夫、頷き口の中のモノを吐き出す。
  克夫   「何でこんな味になるわけ!?」
  たけし  「マジ?マジ!?」
          あわてて料理をつまんで口に入れるが。──料理は、ま
          ずい!──すぐに情けない顔になって克夫を見るたけし。
          克夫、無言で頷くだけ。
                 ×          ×
          カップ麺をすすっているたけしと克夫。
  克夫   「(食べ終えて)カップ麺とはいえ、やっぱ本家吉村屋のラーメ
       ンは美味いな。食べたかったんだ、これ」
  たけし  「‥‥良かったな。食べれて」
  克夫   「これもタケのおかげ?」
  たけし  「慰めてんの?」
  克夫   「別に」
  たけし  「慰めになってないよ」
  克夫   「あのさ、タケ‥‥」
  たけし  「何?」
  克夫   「‥‥何でもない」
  たけし  「あー、ウザい!言いかけてやめるなよ!」 
  克夫   「だからぁ‥‥そうだ、カラオケ行く?」
  たけし  「ごまかした」
  克夫   「違うよ」
  たけし  「ま、どうでもいいけどさ」
          克夫、少し考えてポケットから煙草を出す。
  克夫   「まだ、親帰ってこねぇべ」
  たけし  「吸ったことない」
  克夫   「何にでも初めてはあるさ。どうよ?」
          ぐいっと煙草を差し出し微笑む克夫。
  たけし  「(ちょっと考えて)」
          たけし、煙草をとってくわえるので、克夫、すかさず火
          をつけてやる。
          ぎこちないが思い切り煙を吸うたけし。
  克夫   「おっ!?」
          たけし、煙を吐き出す。
  克夫   「むせないねぇ」
          気を良くしたたけし、再び煙を吸うと今度は思いっきり
          むせる。
  克夫   「やっぱね(笑う)」
          その時、玄関のドアが開き人が入ってくる気配。
          慌ててたばこの火を消し、窓を開け、煙を追い出すたけ
          しと克夫。
          玄関の方からは、酔った様子で「帰ったぞー!」と、怒鳴
          る正樹の声が聞こえる。
  たけし  「また酒呑んでる」

◇ 同・玄関(夜)
          靴を脱ぐのもそこそこに上がりがまちで酔いつぶれてる
          正樹。
  正樹   「ここはどこだ?ああ、我が家かぁ‥‥だけど誰もいませんね
       ーっと(適当に節をつけて自棄気味に歌って)こんなはずじゃな
       かったのに」
          たけしと克夫来るが、正樹を無視して出ていこうとする。
  正樹   「オイ!息子よ!!(克夫を見て)あれっ?息子が二人!?」
  克夫   「あ、俺、友達の峰岸っス」
  たけし  「いいよ、放っておけよ」
          正樹、いきなり直立して。──
  正樹   「あっ、峰岸君ですか。いつもいつもたけしが世話になってま
       す」
          ──と、必要以上に深々とおじぎをしたかと思ったら、
          たけしを見据えて。──
  正樹   「オイ、たけし!放っておけとはどんな言い種だ?お前、俺は親
       だぞ!?」
  たけし  「(克夫に)行こう」
  克夫   「どうもお邪魔しました」
  正樹   「(ヘラヘラ笑い)あ、こりゃ、ご丁寧に。お邪魔されました」
          たけし、「もういいってば」と、正樹に会釈する克夫を
          促し出ていく。
  正樹   「(大声で)たけし!たけし!こんな時間にどこ行くんだ!?オーイ、
       不良になっちゃうぞ!!」

◇ 住宅街の道(夜)
          肩を並べて黙々と歩くたけしと克夫。
  克夫   「タケんとこも面倒臭いな」
  たけし  「‥‥別に」
          二人、歩く。
          黙々と歩く。
          歩く、歩く、歩く。
          ふと克夫がたけしより前を歩く。
          たけし、負けじと早足になって克夫を追い抜かす。
          再び克夫がたけしを追い抜いて。──
          二人、追い越したり追い越されたりしているうち走り始
          める。
          走る。
          走る。
          全速力で、疾走する。
          いつしか二人の頬は笑顔に緩んでいる。

◇ カラオケボックス・内(夜)
          克夫が盛り上げ、ノリのいい曲を絶唱するたけし。
          歌い終え喉を潤すたけし。
  克夫   「なぁ、これからドンキ行かねぇ!?」
  たけし  「?」

◇ 終夜営業のディスカウントショップ『ドンキホーテ』・店内(夜)
          所狭しと食料品、家電製品、洋服など、種類問わず雑然
          とモノが陳列された迷路のような店内を行くたけしと克
          夫。
  克夫   「タケ、ここのモノってどうしてこんな安いか知ってる?」
  たけし  「知らない」
  克夫   「バッタモンだから」
  たけし  「バッタモン?」
  克夫   「バッタモンも知らねぇの?」
  たけし  「うん」
  克夫   「倒産した店とかからほとんどタダみたいな値段で買い取った
       モノのこと」
  たけし  「ふーん」      
  克夫   「だから安いんだよ」
  たけし  「あ、プレステ2!」
  克夫   「(ニヤリと笑い)欲しいよな?」
  たけし  「そりゃぁ‥‥」
          克夫、何のためらいもなくプレイステーション2の箱を
          抱える。
  克夫   「(小声で)レジに行くような振りしろ!」
  たけし  「えっ!?ちょっと‥‥」
  克夫   「この店のモノだってただで仕入れたようなモノばっかりなん
       だ」
  たけし  「(察して)ヤバいって」
  克夫   「大丈夫だって」
  たけし  「箱が大きすぎるよ」
  克夫   「二人だと怪しまれるから、タケ、先出て待ってて」
  たけし  「やめようよ」
  克夫   「(ボソッと)‥‥タケ、色々あるかもしんないけどさ」
  たけし  「何?」
  克夫   「(照れ笑いを浮かべ)元気出せよ」
  たけし  「えっ!?」
  克夫   「早く!」
          克夫、軽くたけしを蹴っ飛ばして先に行くよう促す。
  たけし  「えっ?何、何!?」
  克夫   「(小声で)行け!」
          たけし、克夫の迫力に押され渋々店を出ていく。

◇ 同・表(夜)
          少し離れた物陰で落ち着かない様子で店の出入り口辺り
          を見ているたけし。
  たけし  「カッちゃん‥‥」
          店から克夫が出てくる。
          『捕まらなかった!』と、たけしがホッとしたのも束の間、
          背後から警備員が現われ克夫に声をかける。
  たけし  「!!」
          克夫、猛然とダッシュしようとするが、すぐに体格のい
          い警備員に捕らえられてしまう。         
  たけし  「!?」
          克夫、四肢を滅茶苦茶に動かして激しく暴れる。
  たけし  「カッちゃん!!」
          怖くて動けないたけし。
  たけし  「!?」
          刹那、たけしは克夫と視線が合った気がした。
          たけし、この刹那が永遠に感じる。
          克夫はたけしを睨み付けてるように見える。
          たけし、正視出来ず目をそらす。 
          たけしの耳に克夫の吠えている声が聞こえる。
          たけし、唇を噛むばかり。
          克夫、抵抗虚しく体格のいい警備員の前ではどうにもな
          らない。
  たけし  「‥‥」
          克夫、ズルズルと引きずられあっという間に店内に連れ
          て行かれてしまう。
  たけし  「カッちゃん‥‥」
          店に入っていこうとして躊躇するたけし。
          たけし、どうにもすることも出来ず地団駄さえ踏めない。
          立ち尽くすばかり。


(つづく)

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シナリオ 存在の深き眠り 5

◇ ××中学校・2年3組の教室
          始業前。
          たけしたちがまだ数人の生徒たちしかいない室内でプロ
          レスごっこをしているところに克夫が飛び蹴りで乱入し
          てくる。 
  克夫   「朝から元気じゃねぇか!」
          たけしにヘッドロックを掛けていた敏之、「ンだよ、ギ
          ブ(アップ)しそうだったのに!」と、文句たらたら。
          克夫、笑ってごまかし席に着く。
  克夫   「?」
          克夫の視線の先にある空席の机の上には一輪挿しにいけ
          た白い菊一輪。
  克夫   「死んだの?」
          まじめに問う克夫にたけしたちはニヤけるばかり。
  克夫   「(すぐに察して)ざっけんなよ!」
          笑いながら敏之に襲いかかっていく克夫。
          じゃれ合う克夫、敏之。
  たけし  「(見て)あ、来た」
  克夫   「何?」
          克夫、たけしの視線の先を見ると、そこには机の脇に呆                     然と立ち尽くし飾ってある菊の花を見つめる邦正の姿。
          邦正が一輪挿しに手をかけようとした時、脇からそれを
          取り上げるたけし。
  たけし  「(笑い)綺麗じゃん!飾っておけよ」
          たけし、「な?」と、言って取り上げた一輪挿しを再び邦
          正の机の上に置く。
          まわりの生徒たち、その様子を見て見ぬ振りをするばか   
          りかむしろあからさまに関わりたくない素振り。
  邦正   「でも、これ‥‥」
  克夫   「(威嚇するように)何!?」
  邦正   「‥‥何でもない」
  克夫   「だろ?」
  敏之   「お祝いだから。気にすんなって‥‥って気にしろよ!喜べっつ
       ーの」
  邦正   「お祝い?」
  敏之   「そ」
  邦正   「何の?」
  敏之   「(心の底から楽しそうに)キミが死んだ」
  邦正   「‥‥」
           敏之、少し離れた席で亜梨沙と喋っていたみゆきに。
           ──
  敏之   「優しいなぁ!藤は!!」
  みゆき  「えっ!?違う、私‥‥」
          みゆき、亜梨沙の顔を見て、「違う、違う」と手を振る。
  敏之   「バーカ!真に受けんなっつーの」
  みゆき  「な、何?何?」
  敏之   「お前がこんな気の利いたことするわけないだろ」
  みゆき  「もーう、信じらんない!話しかけないでくれる!?」
  敏之   「こっちこそ!口が腐るぅ〜!!」
          亜梨沙、「もう!」と、いきり立ち再び敏之に食って掛か
          ろうとするみゆきを禁める。
          その様子を見届け満足そうにするとその場を離れた敏之              
          がクラスメイトたちにわざとらしくおどけた振りをし
          「誰?花飾ったの誰?」と聞いて回っているところに担任
          教師・小島昌義(29)が入ってくる。
          生徒たち、皆慌てて席に着く。
                 ×          ×
          教壇に置かれた一輪挿しの菊を前に困った顔で腕組みを
          している小島。
          生徒たち、皆うつむき加減で黙っている。
  小島   「(気弱な苦笑いを浮かべ)こういうのって、先生困っちゃうん
       だよなぁ‥‥君たち(菊を指して)これの意味は知ってるよね?も
       う中二なんだから」
          誰も答えない。
  小島   「何度も聞くけど誰がこんなことやったのかなぁ?」
          再び誰も答えないのかと思ったところに、たけしがのろ
          のろと立ち上がる。
  小島   「おっ!?中原、どうした?」
  たけし  「‥‥っていうかぁ、意味は知ってるんですけどぉ」
  小島   「じゃぁ‥‥」
  たけし  「松本君が飼ってる猫が死んだんでぇ‥‥供養だと思って」
  小島   「エー、それは‥‥」
          亜梨沙、小さくため息をつく。
          控えめに手を上げる邦正。
  小島   「(指して)松本」
  邦正   「‥‥そうなんです。僕が‥‥」
  小島   「僕が‥‥どうした?松本」
  邦正   「僕が‥‥お願いしたんです」
  たけし  「!?」
          亜梨沙、深いため息。
          たけし、克夫と顔を見合わせる。
          克夫、控えめに中指を立てる。
  小島   「うーん、そうかぁ‥‥まぁ、何ていうか‥‥良かれと思って
       したことなら仕方ないけどな」
  たけし  「‥‥」
  小島   「それだったら猫を埋めた場所に花を捧げるなりすればいいん
       で、松本の机に飾ることないだろ」
  たけし  「はい」
  邦正   「すいません」
  小島   「まぁ、しようがないけど二人とも以降気を付けるように」
  たけし・邦正「はい」
  小島   「じゃぁ、授業を始める。中原と松本、もういいから、座りな
       さい」
          たけし、邦正、座る。
          授業を始める小島。
          たけし、何ごとか考えながら教科書を広げる。──不満
          そう。
          そのたけしの後頭部に紙くずが投げ付けられる。
  たけし  「!?」
          たけし、すぐさま紙くずが投げられた方向を見ると。─
          ─敏之がニヤけてVサインををかかげ声を出さず、「ダ
          ッセーんだよ」。
  たけし  「(声を出さずに)うるせー!」
          何事もなかったようかのように授業が続く。

◇ 同・職員室
          書類整理をしている小島。
          目の前には先ほど教室にあった菊が活けたままになって
          いる一輪挿しがある。
          同僚教師(武井・32)、通りがかりにそれを見つけ。──
  武井   「小島先生、それ?」
  小島   「えっ?ああ‥‥」
  武井   「イジメ?」
  小島   「ウチのクラスにそんなのないですよ。大丈夫ですって(笑う)
       それより今夜の飲み会」
  武井   「ああ、そうそう。そのことで小島先生に相談があったんだ」
  小島   「何ですか?」
  武井   「いや、アレですけど‥‥(小声で)校長、(小指を立てて)好きで
       しょ?」
  小島   「二次会?」        
  武井   「そうなんですよ。いいトコご存じないかなぁって思って」
  小島   「(ニヤッと笑い)武井先生、僕が友達から何て呼ばれてるか知
       ってます?」
  武井   「いいえ」
  小島   「横浜の夜の帝王、ですよ」

◇ 同・校庭
          放課後。
          どこからかピアノの調べが聞こえてくる。

◇ 同・男子トイレ
          おびえる邦正を取り囲んで個室に追い立てている克夫た
          ち。

◇ 同・音楽室
          美しいピアノの調べが室内に響いている。
          数学の勉強をしているみゆきの傍らでピアノを弾いてい
          る亜梨沙。
          ドアが開く。
  みゆき  「(見て)来た」
          亜梨沙、ピアノを弾きながらドアの方を見る。
          ドア口にはたけし。
          ピアノを弾くのをやめる亜梨沙。
  たけし  「何?話って」
  みゆき  「亜梨沙が‥‥」
          たけし、亜梨沙を見る。
  たけし  「何だよ」
  亜梨沙  「うん‥‥」
          亜梨沙、次の言葉に躊躇を見せる。
  みゆき  「(促して)亜梨沙‥‥」
  亜梨沙  「うん‥‥(たけしを見て)あの‥‥」
  たけし  「‥‥」
  亜梨沙  「みんなの前だと言いにくいんで‥‥呼び出したりしてご免
       ね」
  たけし  「いいからさ、何だよ」
  亜梨沙  「中原君なら分かってもらえると思って‥‥」
  たけし  「だからぁ‥‥」
  みゆき  「亜梨沙‥‥」        
  亜梨沙  「うん、分かってる」
          自分を言い聞かせるように頷く亜梨沙。そして。──
  亜梨沙  「(決然と)松本君イジメるのやめようよ」
  たけし  「!?」
          室内を静寂が支配する。

◇ 同・男子トイレ
          みんなで邦正を小突き回している。
  敏之   「ざっけんじゃねえぞ!」       
  邦正   「ご免なさい、ご免なさい」
  敏之   「あれで俺らをかばったつもりかよ!」
  健吾   「調子こいてんじゃねぇ!」
          敏之、髪の毛を鷲掴みにし邦正の顔を便器に押し付ける。
  敏之   「舐めろ」
          邦正の顔が苦渋に歪む。
          そこに、たけし来る。
  克夫   「おせえよ、タケ!どこ行ってたの!?」
  たけし  「う、うん‥‥ご免」
  敏之   「コイツ、嘘ついていいカッコしたから」
  健吾   「シメてやんなきゃ調子コクだろ」
  たけし  「そう‥‥だな」
  克夫   「何だよ、腹の調子でも悪い?」
  たけし  「えっ?べ、別に‥‥」
  克夫   「なーんだよぉ、隠し事かぁ?」
  たけし  「(慌てて)そ、そんなんじゃないよ!」
  宏明   「慌てた!」
  健吾   「怪しい!」
  たけし  「違うって!」
  克夫   「ま、いいけどね」
  敏之   「あの‥‥」
  克夫   「ンだよ!?」
  敏之   「(邦正を指して)コイツ‥‥」
  克夫   「ああ‥‥何だか詰まんなくなっちゃったな」
  敏之   「やめる?」
  克夫   「うーん‥‥」
  たけし  「今日はやめない?」
  克夫   「(たけしを見て)やめたい?」
  たけし  「別に‥‥」
  克夫   「うーん‥‥あっ!」
  たけし  「何?」
          克夫、いたずらっぽい笑みを浮かべたけしを見る。
  克夫   「松本‥‥」
  邦正   「はい」
  克夫   「何だか下半身がムズく(ムズムズし)ねぇ?」
  邦正   「えっ?」
          ニヤニヤするばかりの克夫。
  たけし  「‥‥」

◇ 同・音楽室(回想)
          所在なげに机の上に座り足をぶらぶらさせるたけしを真
          摯な視線で射るように見つめる亜梨沙。
  みゆき  「大体何で松本君をイジメるわけ?」
  たけし  「うっせーよ!」
  みゆき  「教えてよ!」
  たけし  「関係ねぇだろ、お前には!」
  みゆき  「関係ないって‥‥だって」
  亜梨沙  「中原君‥‥」
          チラッと亜梨沙を見るたけし。
  亜梨沙  「どうして?」
  たけし  「そりゃぁ‥‥ムカつくからだよ」
  亜梨沙  「何でムカつくの?」
  たけし  「だって‥‥アイツさぁ、猫臭ぇし、それに‥‥」
  亜梨沙  「それに?」
  たけし  「おとなしくて‥‥」
          そう言った切り黙ってしまうたけし。
          間。
  亜梨沙  「それだけ?」
  たけし  「‥‥」
  亜梨沙  「それだけで松本君をイジメるの?」
  たけし  「‥‥悪いかよ」
  亜梨沙  「悪い!」
  たけし  「‥‥」
  みゆき  「ねぇ、中原‥‥」
  たけし  「ンだよ?」
  みゆき  「あんた‥‥亜梨沙のこと好きでしょ?」
  たけし  「えっ!?」
  亜梨沙  「ちょっ、ちょっとぉ、何言ってるの、みゆき!」
  みゆき  「亜梨沙はちょっと黙ってて。どうなのよ、中原」
  たけし  「うるせーよ、ブス!」
  亜梨沙  「そうよ、みゆき、変なこと言わないで」
  みゆき  「そうよって‥‥」
  亜梨沙  「‥‥あ、ご免」
  みゆき  「(わざと少しふくれて)別にいいけどさ」
  亜梨沙  「そういう意味じゃないから‥‥」
  みゆき  「(笑って)分かってるよ!」
  亜梨沙  「だから‥‥変なこと言わないで」
  みゆき  「でもちょっと言わせて。っていうか私言うし」
  亜梨沙  「‥‥」
  みゆき  「中原ぁ、アンタ駄目だよ」
  たけし  「は?」
  みゆき  「亜梨沙はね、峰岸が好きなんだから」
  たけし  「えっ!?」
  亜梨沙  「みゆき!」
  みゆき  「(亜梨沙は無視して)そういうことなのよ、中原」
  たけし  「そういうことって何だよ」
  みゆき  「やっぱ好きな男の子がイジメなんてしてるの誰だって嫌でし
       ょ?だからぁ、そういう意味」
  亜梨沙  「ち、違う!みゆき、私、松本君が‥‥」
  みゆき  「違くないって。亜梨沙、もっと素直になりなよ」
  亜梨沙  「みゆき‥‥」
  みゆき  「私は亜梨沙のことを思って言ってんだからね」
  亜梨沙  「‥‥」
  みゆき  「だからさ、中原さ、そういうことだから、アンタも亜梨沙の
       ことが好きなら‥‥」
          たけし、みゆきの言葉を遮るように突然机を蹴飛ばす。
  みゆき  「な、何よぉ!?」
  たけし  「うっせーんだ、ブス!独り言喋ってんじゃねぇよ!!」
  みゆき  「独り言って?」
  たけし  「妄想すんじゃねぇって言ってんだよ!」
  みゆき  「妄想!?」
  たけし  「あー、うっせー、うっせー!!」
          そう言い捨てると机の上からおりて二人に背を向け部屋
          を出て行こうとするたけし。
  みゆき  「ちょっとぉ!中原!!」
          たけし、答える代わりに近くにあった机をひと蹴りする
          と部屋から出て行く。
  みゆき  「何?あの態度!?ねぇ、亜梨沙」        
  亜梨沙  「うん‥‥」
          その後も独り言のようにブツブツ文句を言うみゆきの横
          で小さくため息をつく亜梨沙。
        
◇ 同・男子トイレ
          ズボンを脱いで立っている邦正。
  克夫   「(ニヤニヤして)パンツも」
          助けを求めるようにまわりを見るが、冷たい目で見据え
          る克夫に畏縮してパンツも脱ぎ股間を隠す邦正。
          邦正、今にも泣きそう。
  克夫   「隠してンじゃねぇ。手、どけろよ」
          敏之たちから嘲笑がこぼれる。
  たけし  「‥‥」
          邦正、おずおずと手をどかし直立不動。
  宏明   「包茎だ」
  敏之   「松本ぉ、包茎は健康に悪いんだぞ」
  健吾   「そうなの?」
  敏之   「(健吾に)知らねぇの?先っちょに垢がたまってチンポ、腐る」
  健吾   「マジ!?」
          自分の股間を気にする健吾。
  克夫   「(邦正に)シコれよ」
  邦正   「えっ!?」  
  克夫   「いちいち、えっ!?とか言わないでくれる?うぜぇんだよ!!」
  邦正   「でも‥‥」
  敏之   「カッちゃんの言うこと聞けねぇのかよ」
          邦正、どうにも出来ずモジモジするばかり。
  宏明   「早くしろ!日が暮れちゃうだろ」
  克夫   「‥‥村野、手伝ってやれよ」
  敏之   「えっ!?」
  克夫   「コイツ、トロいからさ、やり方知らねぇかもしれないだろ?」
  敏之   「何で俺が‥‥」
  克夫   「(笑い)経験ホーフじゃん、村野」
  敏之   「‥‥」
  克夫   「アレ嘘だったんだ、俺が女とヤッたことがあるっていうの」
  敏之   「‥‥」
  克夫   「ご免。だから頼むよ。な、たけし」
  たけし  「う、うん」
  敏之   「‥‥」
  克夫   「どうよ?」
          敏之の一挙手一投足に固唾を呑む一同。
          敏之、意を決したように邦正の前にしゃがみ込むが、汚
          物でも触るかのように嫌々邦正の陰茎をしごき始める。
  克夫   「(ニヤけて)ちゃんと皮も剥いてやれよ」
  敏之   「‥‥」
          克夫の言いなりになって邦正の包皮を剥く敏之。
  敏之   「うわっ!臭っ!!」
          吹き出す克夫。
  敏之   「テメェ、ちゃんと皮剥いて洗っとけよ!」
          一同、笑う。
  敏之   「猫臭いだけじゃなくって、チンポも臭いのかよ!」
          皆、腹を抱えて笑う。
          敏之、自棄になって邦正の陰茎をしごく。
  たけし  「カッちゃん‥‥」
  克夫   「ンっ!?」
  たけし  「いや、別に‥‥」
  克夫   「ンだよ、さっきから変だぜ、タケ」  
  たけし  「ご免‥‥」
  克夫   「別に謝んなくても‥‥」
  たけし  「うん‥‥」
  克夫   「本当に変なモノでも食ったべ?」
          その時、「うわっ!」と、敏之の叫び声がして、すぐに一
          同のどよめきが聞こえる。
          克夫、見ると邦正の放ったザーメンが敏之の顔面に直撃
          している。
  克夫   「きったねー!でも、最高!!なっ、タケ」
  たけし  「う、うん‥‥」
          とても楽しそうに肩を抱えてくる克夫に愛想笑いを浮か
          べるたけし。
          一同も「汚ねー!」「近寄るな!」などと言いながらも楽し
          う。
  たけし  「‥‥」


(つづく)

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2008-11-26

シナリオ 存在の深き眠り 4

◇ たけしの家・リビング(夜)
          真っ暗な室内に入ってくる人影。──たけし。
          たけし、明かりもつけずテーブルの上に用意してある布
          巾の掛かった食事を一瞥、乱暴に布巾を剥ぎ取り、皿の
          中身をゴミ箱に捨てる。
  たけし  「(呟き)晩飯なんかもう食っちゃったつーの」

◇ 同・たけしの部屋(夜)
          川原で見ていたエロ本を広げ布団の中でモゾモゾしてい
          るたけし。
          たけしの息が切なく荒くなって来た時。──階下からガ
          ラスの割れる音が聞こえる。
          モゾモゾがやみ舌打ちするたけし。
  たけし  「クソッ!」

◇ 同・リビング(夜)
          酔いの気配を濃厚に漂わせた派手な化粧、派手な服を着
          た女(たけしの母・中原瑞穂・38)が、ソファーに半身を
          横たえ、だらんと垂らした手の先には割れたグラスがあ
          る。
  瑞穂   「拾わなくっちゃ‥‥」
          かったるそうに起き上がり割れたグラスの破片を集め始
          める瑞穂。
  瑞穂   「痛ッ!」
          瑞穂すぐさま指先をくわえるが、ふと考えて口の中から
          指を出しじっと見つめる。
  瑞穂   「‥‥」
          指先の出血をそのままにしておく瑞穂。
  瑞穂   「(呟き)頑張れば、頑張ろう、頑張る時、頑張らなければ‥‥」
          瑞穂、出血している指がある手で拳を握りゆっくりと開
          く。
          開いた掌は血で真っ赤に染まっている。 
  瑞穂   「‥‥頑張れない」
          玄関のドアが開く音が聞こえ、誰かが帰ってきた気配が
          する。
          ドアの向こうに顔を見せるたけしの父・中原正樹(40)。
  正樹   「何してるんだ?」
          瑞穂、答えるかわりに血で真っ赤になった掌を見せる。
  正樹   「怪我したのか?」
          うなずく瑞穂。
  正樹   「大きい怪我か?」
  瑞穂   「‥‥指先切っただけ」
  正樹   「救急箱あっただろ」
  瑞穂   「食器棚の下」
  正樹   「早くとってこいよ」
  瑞穂   「‥‥」
  正樹   「風呂、沸いてるだろ?」
          首を横に振る瑞穂。
  正樹   「(舌打ちして)疲れてんだよ」
          正樹、ブツブツ言いながらドア口から去ろうとした時、
          二階から大音量で音楽が聞こえてくる。
  正樹   「(ため息をついて)みんなして‥‥頼むよ」
          正樹、二階へいく。
          じっと動かない瑞穂。
  瑞穂   「‥‥無理」

◇ 同・たけしの部屋(夜)
          大音量の音楽でうるさい室内の隅で漫画を読んでいるた
          けし。
          ノックもなしにドアを開け姿を見せる正樹。
  たけし  「何だよ。ノックぐらいしろよ」
  正樹   「近所迷惑だろうが。音、小さくしろ」
          たけし、小さく舌打ちをしてボリュームを下げる。
  正樹   「舌打ちはするな」
  たけし  「酒臭いよ」
  正樹   「仕事だ」
  たけし  「(厭味たっぷりに)はいはい、お疲れ様」
  正樹   「何だ、その口の利き方は!」
          ふて腐れるたけし。
  正樹   「謝りなさい」
  たけし  「‥‥」
  正樹   「たけし!」
  たけし  「(渋々)ご免なさい」
  正樹   「父さん、疲れてんだ。頼むから家に帰って来てまで厄介な気
       分させないでくれ」
  たけし  「‥‥」
  正樹   「返事」
  たけし  「‥‥はい」
  正樹   「(舌打ちをする)どいつもこいつも‥‥」
          出ていく正樹。
  たけし  「(呟き)自分だって舌打ちしてんじゃねぇか」

(つづく)

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2008-11-25

シナリオ 存在の深き眠り 3

◇ あるコンビニエンスストアー・表(夜)
          出入りする客の迷惑も顧みず、入り口のすぐ脇を陣取り
          地べたに座りカップ麺をすするたけしたち。
  宏明   「けっこうしぶといもんだな」
  敏之   「(笑い)だって虫だもん」
  宏明   「ゴキブリ?」
  敏之   「ピンポーン!」
          健吾、おかしくて食べていたカップ麺を吹き出す。
  敏之   「きったねー!」
  健吾   「笑わせんなよ!」
          そこに、藤みゆき(14)と通りかかる遠山亜梨沙(14)。
          たけし、亜梨沙と目が合いそうになってそらす。
          亜梨沙から視線をそらしたたけしをさり気なく見る克夫。
  克夫   「‥‥」
  敏之   「(亜梨沙に)塾かよ?」
          みゆき、答えようとする亜梨沙の腕をとり無視するよう
          促す。
  宏明   「何だよ!?無視かよ」
          健吾、またカップ麺を吹き出す。
  敏之   「何だよ!?何なんだよ?」
  健吾   「だって‥‥ムシ‥‥俺らもムシ?」
  敏之   「はぁっ?」
          みゆき、立ち止まり振り返って。──
  みゆき  「ばーか!」
  敏之   「うるせー、ブース!」
  亜梨沙  「(みゆきに)行こうよ」
  みゆき  「うん」
          みゆき、去ろうとして捨て台詞。
  みゆき  「ゴキブリ!」
          健吾、またまたカップ麺を吹き出し笑う。
  宏明   「だめだこりゃ。ツボ、入っちゃってる」
  敏之   「コラ、ブス!あした、学校で覚えてろ!」
          去るみゆきと亜梨沙の後姿に向かって吠える敏之。
          黙々とカップ麺をすすっているたけしと克夫。
  克夫   「やっぱトンコツにすれば良かったかな」
  たけし  「(自分のカップ麺と)とっかえる?」
  克夫   「いいの?」
  たけし  「いいよ」
  克夫   「サンキュ!」
          カップ麺を交換するたけしと克夫。

◇ 港を臨んだ公園(夜)
          傍らに自転車を置きベンチに座っているたけしと克夫。
  たけし  「ねぇ、カッちゃん‥‥」
  克夫   「何?」
  たけし  「あそこに泊まってる客船ってさ、どこから来てんだろう?」
  克夫   「どこか知らない外国から?」
  たけし  「そうだよね」
  克夫   「何でそんなこと?」
  たけし  「別に‥‥でも、何だか不思議じゃない?」
  克夫   「何が?」
  たけし  「だってさ、全然知らない国だよ」
  克夫   「だから何が不思議だっつーの」
  たけし  「不思議じゃないかな?」
  克夫   「よく分かんねーよ」
  たけし  「そうかな?」
  克夫   「そうだよ」

◇ 街中(夜)
          自転車を並走させているたけしと克夫。
  たけし  「カッちゃん!」
  克夫   「何!?」
  たけし  「カッちゃんの夢って何?」
  克夫   「夢ぇ!?」
  たけし  「そう」
  克夫   「金持ちになること!!」
  たけし  「そうじゃなくって‥‥」
  克夫   「ウザいよ!タケ!!」
  たけし  「‥‥ご免」
  克夫   「別に謝らなくっても‥‥」
  たけし  「だって‥‥」
  克夫   「‥‥悪かったよ」
          それきり二人は黙ってしまい黙々と走り続ける。
          二人は急な坂を登り始める。
  克夫   「(息を切らせて)タケ!」
  たけし  「(息を切らせて)何!?」
  克夫   「お前、遠山のこと好きだろ!?」
  たけし  「えっ!?」
  克夫   「とぼけんなよ」
  たけし  「とぼけてなんかないよ!」
  克夫   「かわいいよな!アイツ」
  たけし  「そうかな?」
  克夫   「俺、コクっちゃおうかな?(告白しようかな)」
  たけし  「えっ!?」
  克夫   「ほーら、慌てた」
  たけし  「違うって!」
  克夫   「違くねぇって!」
  たけし  「もーう、駄目!」
          そう言って自転車を降り、ひと休みするたけし。
          克夫、振り返り笑い、そんなたけしを置いて更にペダル
          に力を入れ坂を登っていく。
  克夫   「根性ねぇ!!」
  たけし  「うるせー!」
          二人の距離が離れていく。
          たけし、克夫の後姿を見ながらトボトボと自転車を押し
          始める。


(つづく)

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2008-11-24

シナリオ 存在の深き眠り 2

◇ ××中学校・校庭
          放課後。
          下校する生徒たちの賑わい。
          様々なスポーツに汗を流す大勢の生徒の姿が眼下に見え
          る屋上の縁を危うい足取りで歩く複数の足がある。
          先頭にたけし、続く克夫、健吾、敏之、宏明。
  たけし    「カッちゃん、ゼッテェ押さないでよ」
  克夫     「なーに、ビビってんだよぉ」
  たけし    「ざっけんなってーの!」
          やいのやいの言いながら縁を歩き続ける五人。
          五人から少し離れたところ、屋上のドアの横に、全身を
          ガムテープでぐるぐる巻きにされたくさんの鞄を持った
          松本邦正(14)が、力のない笑みを浮かべて立っている。
  邦正     「(何かを見つけて)あーっ!」
          たけし、声に驚きよろける。

◇ 住宅街の道
          ガムテープで全身をがんじがらめにされたうえ、腰にく
          くりつけられた紐に引っ張られ走る邦正。
          邦正を引っ張っている紐は、懸命にペダルを踏むたけし
          が乗る自転車の荷台にくくりつけられている。
          克夫たち、自転車でたけしに追走しながら蹴る真似など
          して邦正をはやし立てている。
          息があがってくる邦正。
          その様子をチラッとこなし意地悪な笑みを浮かべ、更に
          スピードを上げるたけし。
          邦正、自転車のスピードについていけなくなり転ぶ。
          邦正が転んだので紐が引っ張られバランスを崩したたけ
          しも転ぶ。
  克夫     「だっせー!」
          ──など、転んだ二人の周りを自転車を走らせたまま取
          り囲み、冷やかしの言葉を浴びせる克夫たち。
  たけし    「お前、マジ、殺すよ!」
          起き上がり邦正を蹴飛ばすたけし。

◇ 川原(夕)
          土手に停められたたけしたちの自転車のそばに傷だらけ
          の邦正が立っている。          
          夕陽に照らされた川面のそば、草むらに集いゴソゴソや
          っているたけしたち。
          たけしたちは、少しふやけてくっついてしまったページ
          もある無修正のエロ本を広げている。
          開いたページにはグラマラスな金髪の美女が惜し気もな
          く股間を見せつけている写真。
  健吾     「うわっ!気持ち悪‥‥」
  克夫     「初めて見んのかよ」
  健吾     「違うよ‥‥でもさぁ、これっていつみても気持ち悪くね
         ぇ?」
  敏之     「俺、慣れた。こんなのエロサイトで見放題だぜ」
  宏明     「いいなぁ」  
  敏之     「何が?」
  宏明     「俺んチのパソ、親がそういうの見れない設定にしてんだ
         よね」
  健吾     「そうそう、俺んチも」
  敏之     「不幸な奴ら」
  健吾     「ホント、不幸だよー」
  敏之     「そうだ。今度俺んチ来いよ。好きなだけ見せてやるよ」
  宏明     「マジ?」
  健吾     「いいの、いいの?」
  敏之     「でも、こんなの最初だけだぜ。見慣れりゃたいしたこと
         ない」
  健吾     「大人じゃーん」
  宏明     「モザイクの向こうが遂に見れる!」
          盛り上がる健吾と宏明をちゃかす敏之。
  克夫     「(ボソッと)でもさぁ‥‥見るよりやる方がいいよ」
  敏之     「えっ!?」
  宏明     「何、何?今のもしかして衝撃の告白?」
  克夫     「だからそういうことだって」
  宏明     「嘘」
  健吾     「だって、俺たちまだ中二‥‥」
  敏之     「気持ちいいぞぉ。なぁ、峰岸」
  克夫     「ああ‥‥」
  敏之     「知ってる?チミたち、女のあそこって変な液体が出てく
         んだぜ」
  宏明     「マジっ?マジっすかぁ」
  敏之     「子供だなぁ。なぁ、峰岸。グッチョグチョだよな」
  克夫     「まぁ、な」
  敏之     「ほらな」
  宏明     「グッチョグチョ‥‥」
  健吾     「深草ぁ、勃って来ちゃったんじゃないの?えっ?」
          健吾、宏明を小突く。   
  宏明     「沢渡こそ」  
          健吾を小突き返す宏明。
  健吾     「何すんだよ。この童貞野郎」
  宏明     「お前だって同じじゃねぇか」
          まるで子犬のようにじゃれ合う健吾と宏明。
  敏之     「ヤダ、ヤダ。童貞ちゃんたちは‥‥なぁ、峰岸」
          克夫、答えるかわりにじっとエロ本を見ているたけしを 
          指差す。
  敏之     「ンだよ。このむっつり童貞が!」
  たけし    「えっ?」
          ふざけ続けるたけしたちの向こう、邦正はまだ立ち続け
          ている。
  邦正     「(ボソッと)夕陽が綺麗だなぁ‥‥」
          微笑む邦正。

◇ 住宅街の道(夜)
          自転車を並走させているたけしと克夫。
  たけし    「ねぇ、プレステ2欲しくねぇ?」
  克夫     「俺、持ってる」
  たけし    「いいなー、ウチさぁー、親、買ってくんねぇんだよねー」
  克夫     「ガメちゃえば(盗めば)いいじゃん」
  たけし    「箱大きいよ。バレちゃうよ」
  克夫     「大丈夫だって」
  たけし    「ばれるって」
  克夫     「大丈夫だって。松本にやらせりゃいいじゃん」
  たけし    「駄目だって。アイツ、トロいから。それに猫臭い」
  克夫     「別にいいじゃん、捕まったって。俺らがやらせたって言
         わせなきゃいいんだから」
  たけし    「(ちょっと考えてから)っていうかぁ、やっぱ、無理」
  克夫     「根性ねぇー!」
  たけし    「うるせぇー。あーあ、どっかにプレステ2落ちてねぇか
         なぁ」
  克夫     「(笑って)ぜってぇ(絶対)ない。(思い出したように)ってい
         うか、猫臭いは関係ないだろ」
  たけし    「関係あるって。アイツんチ、猫食ってるし」
  克夫     「噂だろ」
  たけし    「ぜってぇ食ってる」
  克夫     「ありえない」
  たけし    「あり得ないことをするのが人間だ」
  克夫     「童貞ちゃんが言ってるよ」
  たけし    「悪いか!?」
  克夫     「悪い」
  たけし    「っていうか、村野がヤッテるってマジっすか?」
  克夫     「作りに決まってんだろ、ばーか。アイツの性格考えてみ
         ろよ」
  たけし    「だよなぁ。ちょっと安心」
  克夫     「(わざと年より臭く)ヤダよぉ、この子はぁ」
  たけし    「っていうか、っていうかぁ。カッちゃんのヤッた話、初
         めて聞いたんだけど」
  克夫     「別に喋ることじゃないし」
  たけし    「水臭くねぇ?」
  克夫     「ンなことねぇよ」
  たけし    「で、具体的に教えてよ」
  克夫     「いいじゃねぇか。人のそんな話聞いたって面白くねぇよ」
  たけし    「聞きてぇ!」
  克夫     「しつけぇー!(しつこい)」
  たけし    「教えてよ!」
          やいのやいの言いながら二人は自転車で走り続ける。

◇ ××中学校・2年3組の教室
          数学の授業中。
          教師、淡々としゃべりながら板書をしている。
          生徒の半数以上は真面目に授業を受けているが、少数、
          寝ている者、窓の外を見ている者、教師の目を盗んで隣
          の者とふざけている者などがいて、たけしもそのひとり。
          たけし、携帯電話でメールを打っている。
          打ち終えたメールを送信するたけし。
          送信されたメールはたけしより後ろに座っている克夫に
          届く。
          メールを見てすぐに返信する克夫。
          克夫からのメールがたけしに届く。
          何度かそんなメールのやり取りがあった後、たけし、後
          ろを振り向き克夫に笑いかける。
          親指を立ててそれに応える克夫。

◇ 新聞紙を棒状に丸めたものに火が着けられる(夜)

◇ ドヤ街の一角(夜)
          ホームレスたちがうろつくドヤ街からほど近い高速道路
          の下に段ボールなどで造られたバラックが並ぶ。
          火の着いた棒状に丸めた新聞紙を持ったたけしが、バラ
          ックの一つにそれを投げ付けすぐさま逃げる。
          少し離れたところで隠れその様子を伺っていた克夫たち
          のところへ逃げてくるたけし。
  たけし  「誰にも見られてねぇよな?」
  克夫   「大丈夫」
  敏之   「すげぇ‥‥」
          敏之の声に皆、バラックの方を見る。
          あっという間に燃え広がりバラックは炎に包まれる。
  健吾   「火が回るのって意外に早いね」
  宏明   「どうする?」
  たけし  「どうするって何が?」
  宏明   「中に人がいたら‥‥」
  たけし  「ちゃんと見たって‥‥」
  宏明   「でもさ‥‥」
  健吾   「あっ!」
          炎の中から身体の一部が燃えている一人のホームレスが
          出てくる。
          ホームレス、火を消そうと道路に身体を擦り付けたりし
          てじたばたする。
          近くにいたホームレスたちが集まり、消火しようとした
          りで怒号が飛び交い大騒ぎになる。
  敏之   「‥‥やばいよ」
          皆が息を呑んだ時、くぐもった笑い声が聞こえてくる。
  敏之   「何がおかしいんだよ」
  克夫   「(笑いを堪えながら)だって‥‥おかしくねぇ?」
  敏之   「だから何?」
  克夫   「(おかしくて仕方がない)ジタバタしてる」
          一同が黙り込む中、一人笑い続ける克夫。
  たけし  「‥‥虫みたい」
  克夫   「だろ?」
  たけし  「うん」
          たけしも。──笑い出す。
  敏之   「‥‥虫」
          一同の視線の先には、燃え盛るバラックを背に、身体に
          着いた火はそろそろ鎮火してきたが未だジタバタし続け
          るホームレスの姿。
          敏之以下、一同も段々おかしくなってきて。──笑う。

(つづく)

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